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絶対に着ない白。

翌日… マンションに信の服を取りにきた葵は玄関のロックを解除し 四日ぶりの“我が家”に帰宅する 「フゥ…」 ―――四日間家に居なかっただけで……    なんだか随分と空気が淀んでいる気がするな… そんな事を思いながら葵はルームシューズに履き替えると 外は天気がいいにも関わらず―― 全てのブラインドとカーテンが閉じているせいで薄暗くなっている廊下を ちょっと怖がりながら先へと進み… 誰も居ないリビングにソォ~…っと足を踏み入れる… するとやはりそこも全体的に薄暗く… 黒いカーテンの隙間から漏れる陽光がいい具合に葵の恐怖心を掻き立て―― ―――っもう……怖いってコレ…!    下手に調度品も家具も黒いもんだから余計にさぁっ、 葵は手探りでリビング入り口にあるスイッチをパチッ…と入れ 部屋の電気をつけると、そこでようやくホッと一息つき 軽く辺りを見回す ―――とりあえずまた家を出るまでの間――    部屋の空気は入れ替えておいた方がいいよね。 そう思い…葵はリビングの窓を開けると 一人ウォークインクローゼットに向けて歩き出し… 辿り着いた広さ6畳ほどのウォークインクローゼット内に入ると 通路の左右にかかっている洋服を眺めながら葵は首を傾げる ―――信……服は何でもいいって言ってたけど…    黒とかグレーばっかりだからどれがどれやら… 「う~ん…」 葵はとりあえず目についた何着かのビミョーに… しかしほんの僅かに色の違うグレーのワイシャツを見比べながら 口に手を当てて悩み込む… そこでふと…葵がクローゼットの奥の方に目をやると 棚の上部に赤いリボンがかかっている白い箱が見え… ―――…ん?アレって―― ほぼ黒とグレー…稀に藍色なんかが混ざる空間に… その赤いリボンがかけられている白い箱は 葵の目にはとても浮いて見え―― ―――なんだろう……誰かからのプレゼントかな…? 葵はそう思い…悪いと思いながらも、その箱に少し背伸びをしながら手を伸ばし 箱の下にソォ~…っと両手を差し込むと 更に慎重にその箱を両手で支えながら下へと下ろし 葵は両手に持ったその箱をマジマジと見つめる… するとその箱は定期的に中を開いているのか (ふた)はややしなってはいたものの―― 箱の上にはチリ一つなく… 保存状態はとても良くて―― ―――やっぱり誰かからのプレゼントなのかな?でも……一体誰からのだろう…    かなり大切そうにしまってあるように見えるけど… 葵はその箱を持ったままその場に座り込み――暫くその箱を眺めていたが… 湧き上がる好奇心に負け… 躊躇いながらも恐る恐るその箱の蓋をゆっくりと持ち上げる… すると中には防虫シートに包まれた 一着の白いニットセーターが見え… ―――コレ… 葵は防虫シートを左右に広げ… そのニットセーターを箱からそっと取り出す 「うわ…キレー…」 そのセーターはまるで新品のように真っ白で… 葵はそのセーターを両手で広げ、肩の部分を掴みながら上へと持ち上げると ジッとそのセーターを無言で見つめる ―――随分と高そうなセーターだけど……    でも信って――    確か白は着ないハズじゃあ…… 葵は暫くの間…首を傾げながらそのセーターを見つめる… そこでふと…箱の中に一枚のメッセージカードのようなものを見つけ―― ―――なんだろう……コレ… 葵はセーターを軽くたたんで左腕にかけ 箱の中からそのメッセージカードを取り出すと 恐らく手書きと思われる丁寧な字で書かれたメッセージに視線を移す… 『斎賀君へ  この間は突然の事でビックリしちゃって碌なおもてなしも出来なかったけど…  コレ、遅れちゃったけど斎賀君の会社が100選に選ばれたお祝い。  絶対に斎賀君に似合うと思って買ってみたの。良かったら着てみて。  先生はこれからもずっと斎賀君の事を応援しています。頑張ってね。』 そしてメッセージカードの裏には“TSUBAKI”と書かれており… 「つばき…」 『…つばきさん…』 ―――ひょっとして―― メッセージカードを持つ葵の手が微かに震える… ―――この間信が酔っぱらいながら呟いていた人って――    このセーターを信に贈った人…?

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