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水族館デート2

信がゲート脇のチケット売り場で二人分のチケットを購入し 葵と二人で係員が待機するゲートを潜ると その少し先に流線形の洒落たデザインをした白い建物が見え… 葵はウズウズした様子で信の手を軽く引きながら信の方を振り返る 「信…!」 「わかってるって。」 葵のその顔には「早く早く!」と書かれており… ―――葵のヤツ……随分と嬉しそうにはしゃいじゃって… まだ建物にも入っていないのにその瞳をキラキラと輝かせ… まるで子供のように無邪気に微笑みながら信の手を引く葵の様子に 信の口からは「フフッ…」と笑みが零れる ―――ディナーまでの暇つぶしのつもりで水族館デートを思いついたワケだが――    葵がこんなに喜んでくれるのなら来てよかったな… 信が内心ホッとしながら葵に手を引かれるがまま―― 二人は水族館の中へと入っていく… すると早速二人の目に最初に飛び込んできたのが 極力照明の落とされた薄暗い室内の中央に位置する場所に 天井までの高さのある幅2メートルくらいありそうな大きな円柱形の水槽で… その中には色んな種類の小さなクラゲが 薄い紫や青い光でライトアップされている水の中を… ふよふよと気持ちよさそうに漂っている姿で―― 「うわぁ…!」 葵は掴んでいた信の手を離し… 吸い寄せられるようにしてその水槽へと近づくと 他の親子連れやカップルに交じりながら水槽の前で足を止め 食い入るように水槽の中を見つめる 「キレ~…」 信はそんな葵の傍にそっと近づき、隣に立つと 水槽を眺める葵の横顔をチラリと伺い見る… すると静かな湖面のような葵の瞳には まるで水槽の中身をそのまま切り取ったかのように ユラユラと漂うクラゲが小さく映り込んでいて… 「…キレーだね。のぼる…」 「ああ…」 水中を漂うクラゲを見つめながらそう呟く葵に 信は葵の横顔を見つめながら思わず出そうになった言葉を飲み込んだ… ―――「お前の方が綺麗だよ…」なんて言ったら……    流石にありきたりすぎるか…? 脳裏を過ったその使い古された臭いセリフに流石の信も苦笑を漏らし… 水槽を食い入るように見つめる葵の方を見つめながら小さく呟いた 「…綺麗だ…」 ―――でも…今の葵を見ていたら――        それ以外の言葉が見つかんねーよ… 「参ったね…」 「…?どーかした?」 「!いや……それよりもまだショーの時間まで余裕があるから――  もうちょっとだけ館内を見て回るか。」 「!うんっ!」 そういうと二人はクラゲの水槽を後にし―― 薄暗い館内を、順路に沿って歩き始める 「ねぇ信…」 「…ん?」 「信は――魚の中では何が好き…?」 「…それは――食べる方の意味で?」 「…違うよ!もう…」 二人は色とりどりの熱帯魚が泳ぎ回る水槽の前で足を止め―― 時折自分たちの目の前を泳いでいく魚を見つめながら話を進める 「ん~~…そーだなぁ~…  食べないんだったらやっぱシャチが好きかな。」 「シャチ?」 「そ。」 「なんで?」 「何で?!ん~~~…深く考えたことはなかったが――見た目かなぁ…  あんなに可愛らしい見た目してんのに獰猛(どうもう)でずる賢くて…    俺に似てるだろ?」 信はフッ…と悪戯っぽい笑みを浮かべながら葵に言ってみるが 葵は真顔で… 「…信は可愛くない。」 「えー…」 「カッコイイ。」 「…そらどーも。  ――で、葵は?何が好き?」 「俺…?俺はアレ、白くて丸いヤツ。」 「白くて丸い?」 ―――何だ?…そんな魚……いるか…? 「そう。白くてぇ…真っ黒いおめめがクリクリしてて…ふわふわで――」 ―――白くて丸くておめめクリクリでふわふわ…… 「………もしかして……ワモンアザラシの赤ちゃんか…?」  つか魚じゃねーし!」 「そうそれ!よく名前が出てきたね…凄いなぁ…  信って――意外と動物好き…?」 「まあ……嫌いじゃねーな。」 ―――昔犬飼ってたし… 今は亡き愛犬の事を思いだし… 信は少ししんみりとする ―――そーいや……    柴犬の顔ってどことなくアザラシっぽいって思っているのは俺だけ…? 信はふとそんな事を思いながら腕時計に目をやると 時計の針は14時51分を指していて―― 「ッ!?マズイぞ葵!ショーまで10分切ってる!」 「ええっ?!」 「急ごうっ!」 そういうと信は葵の手を掴み―― 二人はイルカショーが行われる会場へと足早に向かった…

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