98 / 137
水族館デート3
信たちが急いで会場に向かうと平日にも関わらず…
会場は既に多くの人で賑わい、席もそれなりに埋まっていたが――
「ここ、空いてますよ?」
信たちが席を求めて彷徨い…前から二列目に差し掛かったその時…
突然女性の声が聞こえ、信が声のした方を振り返ると
一人の女性が信を見つめ――
にこやかに微笑みながら自分の隣の席を軽くポンポンと叩いており…
「え……いいんですか?」
「ええ…構いませんよ。席も丁度二席空いてますし…」
見れば確かに女性の右隣の席が二席空いていて――
「助かりました。ならお言葉に甘えて……」
信はその女性に礼を言い…葵とともに軽く頭を下げてから席に着くと
女性の左隣に座っていた若い二人の女の子たちがザワつきだし…
「何あの人っ!チョーカッコイイんですけどっ?!」
「連れの人もやっば……チョーキレ~…
二人ともモデルさんか何かかな…?背高いし…」
「ッ、コラ!貴女たち!失礼でしょ!?すみません……騒がしくて…」
「アハハ…いえ……そちらのお二人は――妹さんですか?」
「まあっ!妹だなんて……娘です。中一と中三の…」
「娘さんですか!…とてもそんな風には…」
「まあっ!オホホホホ…」
「………」
爽やかな笑みを浮かべ…隣の女性と気兼ねなく話す信に
葵がジットリとした目で隣に座る信を見つめる…
―――流石信…社交性が高いというかなんというか…
とても自分では真似出来ない対応をする信に
葵は複雑な思いで小さく溜息をつく…
そこにダイビングスーツを着た一人の女性スタッフが
観客席から大きなプールを挟んで向こう側に設置されているステージ上に
観客席に向けて大きく手を振りながら姿を現し…
「!見てっ!信!」
「お!遂に始まるか。」
パチパチパチ!と、周りの観客からは一斉に拍手が上がり…
観客席からの拍手に出迎えられながらスタッフはステージ中央に立つと
観客に向けて手を振りながら装着しているヘッドマイク越しに言葉を発した
『皆さま!本日は当鴨柳シーワールドにお越しいただき
誠にありがとうございま~すっ!』
「ワアァァァァ!」
観客席から拍手と歓声が上がり――
信と葵も他の観客に交じって拍手を送る
『そしてこの子たちも皆様に来ていただき――
とても喜んでいるようです!みんな~!お客様にご挨拶を~!』
スタッフがプールに向けてピッ!と笛を吹くと同時に片手をバッと上げる
すると観客席のすぐ目の前にあるプールから
五頭のイルカが一斉に勢いよく水しぶきを上げながら垂直に飛び出し…
空中で五頭が同時にクルッと弧を描くと――
観客席からは「わあっ!」という歓声が上がり…
「凄い……カッコイイ…っ!」
葵も空中で水滴を弾きながら飛び跳ねるイルカの姿に心奪われ――
再びザブンッ!と水中に消えていくイルカたちの姿を眺めながら
葵は思わず隣に座る信の手をギュッと握りしめると
その瞳をキラキラと輝かせながら興奮気味にその口を開いた
「ッねえねえ信っ!今の見たっ?!」
「ああ…見たよ。」
「凄いよねぇ~…
俺イルカのジャンプって初めて見た!」
ニコッ!と信に向けて無邪気な笑みを見せる葵に――
信もまた…今まで誰にも見せたことのないような優し気な笑みを葵に向ける…
そんな中――何故か信たちの周りが妙にザワつきだし――
「ハァ…素敵…!やっぱ美男子二人は絵になるわ~…」
「綺麗な男二人が互いに見つめ合いながら微笑み合うなんて……
ここは天国か…?」
「…おい、イルカ見ろよ。前の男二人じゃなく。」
「アンタ何言ってんの?
イルカよりコッチが気になるに決まってんでしょ?」
「チッ……これだから腐女子は…!」
「その腐女子好きになったのどこの誰よ。
アンタ私の趣味理解して好きになったんじゃないの?」
「ッそれは――そうだけどさぁ…っ、」
「…ねぇお姉ちゃん……今日はなんだか得した気分ね。」
「ホントにね。こんな美味しいシチュを間近で見られるなんて…
あ、ヨダレが…」
「ちょっとアンタ達いい加減にしなさいっ!
オホホ…ホントごめんなさいねぇ~…この子たちったら…」
「アハハ…」
「………?」
信は苦笑いを浮かべ――
葵は信の手を握ったままキョトンとした様子で辺りを見渡すが…
「キャッ…コッチ見た…っ!」
「やっば……ホントめっちゃ綺麗…!写真撮りたい…っ!
イルカ撮るふりして前の二人撮っちゃダメ…?」
「それはアカンやろ。」
「………?」
何故か自分と目があった途端、慌てふためく周りの様子に
葵はやっぱり首を傾げるしかなくて…
「ねぇ…信……俺達――なんかした…?」
「葵……世の中には――知らなくていい事もあるんだよ…」
「…?」
信の言葉に…
葵はますます首をひねった…
ともだちにシェアしよう!