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水族館デート5

葵と年配の女性…それと女の子とその母親を含めた計4人が スタッフの案内の元…ステージに上がると―― ステージ上の大型スクリーンにも4人の姿が映し出され… 観客席からステージ上の4人に向け、拍手が送られる 「…あの一番背の高い子……さっきまで俺らの後ろにいたヤツだよな…  男か…?」 「いやいや…背の高い女の子かもしれん。  ――だってあの顔見て見ろよ……あんな綺麗な顔の子が男だったら俺泣くぞ?」 「はあ?なんでお前が泣くんだよ…」 「だって俺――このショーが終わったらあの子口説きに行こうかなぁ~…なんて…」 ガンッ! 「うわっ!」 「ッ!?何すんだよっ!」 座っている椅子の背もたれを… 急に誰かに後ろから蹴られたような衝撃を感じ―― 今まで好き勝手に喋っていた二人組の男達が 半ギレ状態でバッ!後ろの席の方を振り返る… するとそこには長い脚を組みなおしながら笑顔で男達を見つめる信の姿があり… 「…失礼。足を組もうとしたらココ狭いもんで……  つい背もたれに足がぶつかってしまったようですが――大丈夫でしたか?」 口調は穏やかだが… アンダーリムのレンズ越しに覗く信の瞳は非常に鋭く… 浮かべているその笑顔は見る者をゾッとさせるには十分すぎる程冷たくて―― 「あ………いえ~…全然…全然なんとも…っ、…なっ!」 「あ…ええっ!ちょっとビックリしちゃったくらいなんでっ!お気になさらず…」 信の笑顔と醸し出す雰囲気に男たちは直感的に何かを察したのか 振り向いた時の威勢は何処へやら… 語尾が小さくなっていくにつれ―― その姿勢もたじろぎながら小さくなっていく… 「そうですか。それを聞いて安心しました…ちなみに――  あの一番背の高い子…“俺の”なんで……口説かないでもらえます…?」 「ッ!は、はいっ!口説きませんっ……絶対に口説きませんっ!!」 「あ!俺ら…ちょっと用事を思い出したんでっ!これで失礼しますっ!  ホラ、行くぞ!」 「あ…ああっ!」 そう言うと男たちはそそくさと席から立ち上がり―― その場から逃げる様にして立ち去っていく ―――まったく… 「ハァ…」と信は呆れた様子の溜息をつき―― 逃げていく男達を見送りながらネクタイを少し緩める… すると周りがまたもザワつき始め―― ―――やべ……葵の事でついカッとなって――凄んじまったが…    やりすぎたか…? 信は先ほどの男たちに対する自分の態度に、周りを怯えさせてしまったかと焦り… 少しだけ辺りの様子を伺うような視線を配る… しかし周りの反応は、信の予想していたものとは大分違ったもので―― 「ねぇ…今彼――“俺の”って言ってたよね…?私の聞き違いじゃないよね…?」 「…言ってた。私も聞いた。」 「でしょっ?!ああ……今日は本当になんて良い日なの…!  綺麗な男の人二人の水族館デートを目撃しただけでも美味しいのに…  美少年をナンパしようとするごろつきに向かって連れの男性が牽制の意味を込めて  “俺の”なんて言っちゃうような現場を生で見られるだなんて…  メチャメチャ美味しすぎでしょっ!神様ありがとう…っ!」 「…喜んでもらえて何より。」 「アンタ神様かっ!」 「ところでお姉ちゃん……私気になる事があるんだけど…」 「何だい?神様。」 「…あの二人はどっちが受けで――どっちが攻めだと思う?」 「バカッ!そーゆー事はここで言っちゃダメよっ!マナーに反するわ!  でも……そうねぇ~……私は男前が受けの方が好きだから――  眼鏡の人の方が受け……かしら…?」 「あら…貴女はそっち?」 突然後ろの席で座っていたカップルの女性が 姉妹の座る前の席にズイッと身を乗り出し… 姉妹の間に割って入ると、何食わぬ顔で二人の会話に混ざる 「お…おい…お前っ?!」 「ん~~…確かに眼鏡の人も受けくさいけど――  私はやっぱりあの綺麗な子が受けの方が(たぎ)るわぁ~…」 「あ、私も。」 三人は女性の隣であわあわと慌てふためく男性を無視し すっかり打ち解けた様子で盛り上がり始める… しかし―― 「っコラッ!貴女達いい加減になさいっ!!隣の人にも聞こえてるわよ!  ホントすいません……この子達ったらもう…っ、」 「はは…、」 遂に耐え切れなくなった良識ある姉妹の母親がそれを止めに入り… 信に向けて頭を下げるが―― 信は気まずげに引きつった笑みを浮かべ…その口からは乾いた笑いしかでてこず… 『むぅ~……絶対に俺置いて…何処にも行ったりしないでよ…?』 ―――葵スマン……俺この状況に耐えられるかどうか自信ない… 先ほど逃げ出した男達とは別の意味で 信はこの場から逃げ出したくなった…

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