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水族館デート8

二人が売店に足を踏み入れると 中には様々なグッズなどが売られており… 中でも一番目につくのが 海の生物などを模したぬいぐるみなどが並ぶコーナーで―― 二人は軽く店内を見回すと、棚に並ぶ商品を眺めながらゆっくりと足を進める… そんな中――二人がTシャツなどの商品が並ぶ棚の前に差し掛かったその時 葵がふと足を止め――ある商品を手に取ると 信に向けて声をかけた 「ねぇ信。」 「ん~?」 「ジャーン!」 他の商品などを見ていた信が葵の方を振り返ると… そこにはブッサイクな顔をしたハリセンボンを模したと思わるキャスケットを ご満悦な笑顔で頭に被っている葵の姿があり―― 「どお?可愛いでしょ?」 「…お前の可愛いの基準が分からん…」 「え~…可愛いでしょ?コレ~…  このつり上がったおめめに小さいおちょぼ口が愛嬌あってサイコーじゃん。」 「あー…うん…で?お前ソレ――買うの?」 「ん~ん。ただ可愛いなと思っただけ。  あ!でも信が被ってくれるのなら――」 「…被りません。」 「えー…信に似合うと思うんだけどなぁ~…このハリセンボン…ホラ!」 そう言うと葵は今まで自分が被っていたハリセンボンのキャスケットを脱ぐと ちょっと仏頂面になっている信の頭にポンと被せてきて―― 「…ね?やっぱり信に似合ってる!――プッ…クククッ、」 「…笑ってんじゃねーか。」 「そっ…そんな事ないよ?ただちょっと――フフッ、可愛すぎたかなって…」 楽しそうな微笑みを浮かべる葵を余所に… 信は帽子が並ぶ棚に置いてあった小さい鏡に視線を移すと そこには仏頂面した自分と同じくらいブスッとした顔のハリセンボンが 自分の頭の上で睨みを利かせており―― ―――…にしてもブッサイクだなこのハリセンボン… 信は「ハァ~…」と大きな溜息を吐くと 自分の頭に乗っているハリセンボンをそっと脱ぎ… 形を整えながらもとあった場所にそのハリセンボンを戻す 「あ…戻しちゃうんだ…折角似合ってたのに…」 「…お前が土産として買うのなら別に止めはしないが――俺は被らないぞ?」 「むぅ…じゃあ要らない。――あ!だったらコレは?」 次に葵が手に取ったのは二頭のイルカが星の海を飛び跳ねている… ラッ〇ンが描いたような絵がプリントされた ありきたりな七分丈のTシャツで―― 「…まあそれなら――普通に部屋着として悪かないが…」 「でしょ?…じゃあコレ二着買って――家に帰ったら早速ペアルックね?」 「……本気で言ってんのか…?」 「うん!」 広げた七分丈Tシャツを信の身体に当てながら、満面の笑みでそう答える葵に 信はフッ…と微笑みを返すが―― 「ねぇ…あの二人ヤバくない…?」 「ッ確かに……あそこだけ空気が違う…てか絵面が美しすぎてヤバイ…」 「…美男美女が並ぶとマジでヤベーな。」 「え……どっちも男じゃね?」 などと周囲がザワつき始め… ―――…またかよ… 「ハハ…」 信は目の前で楽しそうに微笑む葵に気づかれぬよう… 苦笑いを浮かべながらザッと周囲の様子を伺うと コソコソしながらも店内の客の視線がほぼ信と葵に集中しており… ―――まったく……イルカショーでもそうだったが――    お前ら商品見ろ!俺達じゃなくて…    まあ……葵が美人すぎるから人目を引くのは分からんでもないが… 自分の事は棚に上げ…信が遠い目をしながら微笑んでいると 周りの事など一切気にしていない様子の葵が突然信の手を掴んで歩き始め… 「っ…おい…?」 「ね。今度はあっちのぬいぐるみ見に行こう!」 そう言って葵がウッキウキで信の手を引き―― ねっとりと自分たちに纏わりつくような視線を無視して 二人はおてて繋いでぬいぐるみコーナーへと向かう 「うわ~…いっぱいある~……あっ!」 「?」 ぬいぐるみコーナーに着いた途端 何かを見つけたらしい葵が信からパッと手を離して向かった先には―― 大きさがどれも100cmくらいありそうな、大きなぬいぐるみが並ぶスペースで… 「見て!信が好きなシャチ見つけた!」 身長180ある葵が 自分の膝下まで尾ひれの長さがある大きなシャチのぬいぐるみを 胸にギュッと抱きしめながら笑顔で信の方を振り返る… すると周囲がまたもザワつき始め―― 「…マジかよ…  ぬいぐるみ抱きしめて可愛いが許されるのは幼女までじゃなかったのか?!  なんなんだよあの長身の男……可愛すぎんだろ…!」 「ヤベェ…ヤベ~よ…今のでキュンとキちまった…男なのに…男なのに…!」 「…女が彼氏の前でアレやったらただあざといって思われるだけなのに…  美形な男がアレやったら可愛いで済まされるってなんかズルくなぁ~い…?」 「でも……実際可愛いし彼…」 「確かに。」 ―――だからお前らさぁ…っ! 信は葵に笑顔を返しながらも… 周囲の葵に対する反応が面白くなくて蟀谷(こめかみ)がピクピクと脈打つ… そこに葵がシャチのぬいぐるみを抱っこしたまま信へと近づき―― 「…ねぇ信……この子――買っちゃダメ…?」 「ん?別に構わないが――ソレだけでいいのか…?  お前の好きなワモンアザラシの赤ちゃんのぬいぐるみもあそこにあるぞ?」 そう言うと信はちょっと小さめのぬいぐるみが並ぶ棚に置かれた 白い毛がフワフワとしたワモンアザラシの赤ちゃんを指さすが―― 葵はフルフルと頭を振り… 「ん~ん…この子だけでいい。  それにもう…この子の名前も決めちゃった。」 「ほ~お……なんかもう既に嫌な予感がするんだが――  一応聞いてみても?」 「うん!あのね?のぼ――「却下。」 「えー!何で~?!可愛いでしょ!?“のぼるくん”!」 「…のぼるくんてお前なぁ……せめて他の名前にしてくれよ…  …大体何でぬいぐるみに名前なんか…」 「だって……名前あった方が愛着湧くでしょ?  ね~?のぼるくんもそー思うよね~?」 葵の中ではもう既に そのシャチのぬいぐるみの名前は“のぼるくん”に確定したらしく… 葵はそのシャチのぬいぐるみに微笑みかけながら話しかけ―― 「ハァ~~…」 ―――俺がシャチが好きだなんて言ったばかりに… 信は今度こそ盛大な溜息を吐くと葵を説得するのを諦め… 頭をかきながら口を開いた 「あー…それじゃあ買うのはホントーにソレでいいんだな?」 「“ソレ”じゃないよ。“のぼるくん!”」 「あーハイハイ。それじゃあその“のぼるくん”と――あと他に欲しいのは?」 「ん~……ない。――あ。さっきのTシャツも!」 「じゃあさっきのTシャツ二枚と“のぼるくん”の会計済ませて此処を出たら  あともう少しだけ館内見て回って――  その後は予約してたレストランに向かうぞ。」 「分かった。あ、信。」 「ん?」 「“のぼるくん”が…買ってくれてありがとうって…」 「ッ…だからそれ止めろって!」 「フフッ…」 二人は周囲の目も気にせずじゃれ合いながら “のぼるくん”とTシャツの会計を済ますと売店を後にし―― 「…さっきの男性客二人…ヤバかったわね。」 「ね~!…ところで今日テレビの取材クルーが来てたの知ってた?」 「え!?知らなぁ~い!なにそれ…」 「何でも今日やったイルカショーの一部を  今日の夕方か深夜のローカルニュースで流すらしいよ。」 「へぇ~…」

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