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それは演技か、はたまた…

トロッ…とした舌触りとフルーティーな香りと甘みが口腔内を満たし 柔らかな喉越しと共にその液体は信の喉を潤しながら喉元を下りていく… ―――確かにこの甘さだったら…    ジュースとして出されたら勘違いしてしまいそうだが―― 「……義人。」 「ん?どうした??」 「コレ――酒だぞ…」 「!?そんな馬鹿な…」 「だったらホラ…飲んでみ?」 「だから俺のじゅーすぅ~…」 信は未だに自分の持つグラスに未練タラタラで手を伸ばす葵を往なしながら そのグラスを義人へと手渡すと 義人はそのグラスに顔を近づけた途端眉間に皺を寄せ―― 「…ホントだ……酒だわコレ。」 「…だろ?」 ―――流石料理人…匂いだけで分かったか… グラスの中の液体をマジマジと見つめながらその表情を曇らせる義人に 信は感心する 「…それにしてもおかしいなぁ~…  ウチではちゃんとジュースと酒は別々に…  酒に至っては種類別に保管方法も分けて管理していたハズなのに…  ちょっとキミ。」 「はい。何でしょうかオーナー。」 義人は先ほどジュースのおかわりを持ってきたスタッフを呼び寄せると 手に持ったグラスをそのスタッフに向け差し出す 「このグラスに注いだジュースのボトルを持ってきてもらえる?」 「…分かりました。」 そう言うとスタッフは足早にその場を離れ… ものの一分もしないうちにラベルに可愛らしいフォントで『もも』と書かれた 薄いピンク色をしたこれまた可愛らしい感じのボトルを抱えながら姿を現し… 「…コチラになりますが…」 「ご苦労様。ん~…どれどれ~…?」 義人はボトルを受け取ると 早速そのボトルを回しながら張られたラベルを確認し始める… するとその表情は先ほどよりも更に曇り―― 「……アルコール度数8パーって……マジか…」 「ハァ~…やっちまった…」と義人は呟き… ボトルを持ったまま申し訳なさそうに信の方へと向き直る… 「…信スマン…ちゃんと確認していたつもりだったんだが――  どうやらソチラの未成年のお嬢ちゃんに酒を飲ませちまったらしい…」 「ハァ~…」と再び義人は重々しい溜息を吐き出すと 信がそんな義人に苦笑を浮かべながら口を開いた 「まあ気にすんなって…  そのボトル――パッと見ジュースっぽいしな…間違いは誰にでもある。  ただ――」 「ねぇ~…おれのじゅーすは~…?」 信がチラリと葵の方に目を向けると そこには頬を紅潮させ…潤んだ瞳で縋るように自分の事を見つめ―― 更には両手でギュッ…と信の手を握りながら 舌足らずにジュースを強請る葵の姿があり… ―――…こりゃあ…相当酔ってるな…    そりゃまあ――度数8の酒をワイングラスやシャンパングラスよりもデカい    300ml以上入りそうなグラスで1時間以内に6杯も飲みゃーそりゃ酔うわ。    俺なら潰れてる。 フッ…と―― 酒にそんなに強くない自覚のある信は思わず吹き出すと、静かに席を立つ 「んぇ……どーしたの…?のぼる…」 「…信?」 「…?」 おもむろに席を立った信に義人と仁が不思議そうに見つめ―― 葵もキョトンとした様子で信の事を見つめる… すると信は葵の座る席の背後に回り 背後から葵の耳元に「…葵…立って。」と囁くと 葵の座る椅子を軽く後ろに引き始め… 「…こんな状態の葵をこのままにしておくワケにはいかねーだろ?  だから今日の所はもう……俺達は先に帰らせてもらうわ。」 「悪いな。」と信は申し訳なさそうに二人に言うと―― テーブルに両手を手を突き… フラつきながらも席から立ち上がった葵の腰にそっと手を添え 葵の身体を支える… すると葵がヘニャ~…っと笑いながら信の肩に再びしな垂れかかり… 信はそんな葵の様子に微笑みながら席を離れようとしたその時 「…信。」 「ッ!?」 突然仁が信に向かって何かを投げて寄越し―― 信が咄嗟に空いている方の手でソレをパシッ…と掴み取り… 怪訝な顔をして掌の中にあるモノに目をやると ソレは信のマセラティの鍵で… 「コレ――」 「…返す。お前も見たろ?表にマセラティが停まってるの…」 「見たけど……え、じゃあお前は?…帰りどーすんだよ…」 「…俺はタクシーで帰る。だから気にするな。」 「…そうか。じゃあ遠慮なく……あ!それと…」 信がスーツのポケットに鍵をしまい… 空いたテーブルの上に置いておいたバラの花束を掴むと その花束を軽く掲げながら信が仁に向けニッと微笑みかけ―― 「花束ありがとさん。」 「………」 その信の笑顔に……仁は一瞬ポカンとした様子で固まったが―― すぐに自分の隣でニヤついている義人の視線に気が付くと 仁は照れ隠しにシャンパングラスに口をつけながら 葵を支えてその場を離れていく信の背中を見送る… すると信に寄りかかっていた葵がチラリとその視線を仁に向けたその時… 「…ッ!」 一瞬……ほんの一瞬だけ… 葵が微かな笑みを浮かべたように仁には見え… ―――アイツまさか…… 仁がグラスを置き…再び視線を上げた時にはもう既に信たちの姿はそこにはなく… ―――まさかな…    いくらなんでも度数8の酒を短時間にあれだけ飲んで    酔ったフリなんて流石に―― 「………」 「どうした?」 「…いや…」 「???」 ―――まさか……な、

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