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不安を消す方法。

「離さないで信…  俺も――何があっても信の事…絶対に離さないから…」 何処か不安げに揺れる瞳で真っ直ぐに自分の事を見つめながら “離さないで”言う葵に信は一瞬たじろぐが―― 「フッ…俺がお前を離すワケないだろ…?おかしなことを言うヤツだな…」 信は葵の腰に回している手でグッ…と葵の身体を引き寄せ… 微笑みながら葵の目を見て言う 「…お前は気づいていないみたいだが――  俺はこー見えて…意外と執着心が強いんだ。気に入ったヤツなんかは特に…」 「信…」 信は片手でそっと葵の頬に触れ… 自分を見つめる葵の目元を親指でツゥ…っとなぞっていく… 「…ましてや一度好きになったヤツを簡単に手放すほど…  俺はお人よしじゃない。」 「………ッ!?」 信の言葉に… 潤んだ葵の瞳が大きく見開いていく… 「これで二度目だな。お前に好きって言うの…  あ。今ので三度目か。」 「ッ…のぼる…!」 感極まった葵は信の肩口に顔を埋めながらギュッ…と信に抱きつき―― 信はそんな葵の背中をあやす様にポンポンと叩く 「…バカだな……俺がお前を離すわけがないだろう…?」 「ッ、でも…」 葵は信の肩口に顔を埋めたまま、信の背に回した手に力がこもる… 「…なんだ……俺の言葉だけじゃ不安か?」 「………ふあん…、」 葵は更に強く信を抱きしめながら、震える声で小さく呟く 「…そう……不安だよ……何時だって不安だ……  だって信は――」 不意に葵が顔を上げ―― 自分の事を見つめる信の瞳をジッ…と見つめ返すと 静かにその口を開いた… 「俺には何も――求めてこないから…」 「……!?それはどういう…」 その言葉に信が少し驚いたような表情を見せ… 思わず葵の顔を凝視する すると葵は頬を染め… 恥ずかしそうに信から視線を逸らすと 躊躇いながらその口を開いた… 「おれ……、ッ、俺はね?信……  信が好きだって自覚した時からずっと信に触れて欲しかった…  求めて欲しかった…」 「ッ、」 葵からの思わぬ告白に、信は葵の顔を見つめたままピシッ…と固まり… 葵は自分の腰に添えられていた信の手を掴み… その手を持ち上げながら両手で握りしめると―― その手に愛おしそうに頬を寄せる… 「でも信は俺に優しくしてくれるばかりで何も求めてはこない  何も望んではくれない…    それが凄く不安だった…  俺はこのまま何もしないで…信の傍に居ていいのかな…って…」 「…!」 『…俺――これから先もずっと……信の傍にいても良いんだよね…?』 ―――ああ…だからタクシーの中であんな事を… 信はスッ…と瞳を細め 自分の手に頬を寄せる葵を見つめる… 「…わかってるよ?  信は何か見返りが欲しくて俺に優しくしているワケじゃないって…  でも……、ッ、でもさ…  俺は信に求めて欲しかったんだ……“俺自身”を…  そうすればこの(まと)わりつくような不安も消えるかなって思って…  “信が俺を必要としてくれる理由”にもなるし――  “俺が此処に居て良い理由”にもなるから…」 葵は信の手に頬を寄せたまま信に視線を向ける… すると信の顔がすぐ目の前まで迫ってて―― チュッ、 「ッ……のぼる…?」 「……ゴメン。」 信は葵の額にキスをし… そのまま葵の身体を優しく抱きしめると 囁く声で呟いた… 「…ゴメンな…葵…お前を――不安にさせちまって…」 「のぼる…」 葵はおずおずと信の背に両手を回し… 縋るように信の服をギュッ…と掴む… 「…謝んないで…信…」 「葵…」 「俺は信に謝って欲しいんじゃない…  消して欲しいんだ……この不安を…今すぐ…  だってこの不安は――信にしか消すことが出来ないから…」 そう言うと葵は更に強く信の服を掴み… 信の頬に自身の頬をすり寄せながら信の耳元に唇寄せると―― 熱い吐息と共に囁いた… 「……抱いて…信…」 「ッ!葵……、ッ、…それは――、」 信は思わず葵から身体を離そうとするが―― 信の背に回されている葵の手がそれを許さない… 「お願い信……  抱いて――この不安を俺から消し去ってよ…」

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