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触って欲しい…

―――『覚悟が出来ていない』…?…知るか!そんなの…っ、 「ッ…あおい…っ、…待てって…っ!」 「ハ…ぁ…、ッ、…やだ。待たない…!」 透明な糸を引いて離れた唇は―― 再び糸に繋がる先の唇を(ふさ)ぐようにして重なり… 葵は信の唇を(むさぼ)りながら掴んでいる胸倉をグッ…と押すと そのまま信の身体を玄関横の壁にドンッ!と押し付ける 「っあお…、ッッ…、」 「ハっ…ン……ンッ…」 チュパ…ピチャ…という湿り気を帯びた微かな水音が 二人以外誰もいな静かな廊下に響き… それに合わせて熱を帯びた二人の息遣いが徐々に荒くなっていき―― 重なり合う二人の唇の隙間からは 飲み込みきれなかった二人分の唾液がタラタラと溢れ… 信や葵の口の端を汚していく… そんな中…信は葵の肩をグッと押し―― 「ンッ…プハッ、、よせ…、葵…っ!」 「っどーして…?」 「ッどうしてって……ここ廊下っ!  いつ誰が来るか――」 「…最上階のこのフロアには俺と信以外誰も住んでないでしょ?誰も来ないよ…  そもそも信か俺の指紋認証か――  あるいはコンシェルジュの西崎さんの許可がない限り  このフロアには誰も上がっては来られないし…」 「ッ…しかし――」 「んもうっ!だったら――」 葵は信を壁に押し付けたまま玄関横の端末に中指をかざし 指静脈認証で玄関の鍵を開けると、そのまま玄関のドアを開け―― 「っのぼる…、ッ、開けたから中に入って…早く…!」 「!ちょ、分かったから押すな…っ、」 葵はもどかしい様子で開いたドアの中に信を押し込みしながら 続いて自分も玄関の中へと入ると 扉は葵の背後でパタン…と閉じ… それと同時に葵はずっと掴んで離さなかった信の胸倉を強く引き寄せながら 再び信の唇に自身の唇を強引に重ねはじめ―― 「ッ!ンッ…葵…ッ、」 「ッ…のぼる……ンッ…ンッ、、あんしんして…?  ぜんぶ…、ッ、はっ…ぁ…、ッ、全部俺がヤルから…っ、」 「…は?ッおま…っ、ン…ふっ…、ッ、なに…言って…っ、」 信は戸惑いながら葵の肩に手をかけ… 今もなお信の口内を貪ろうとする葵を引き剥がそうと試みる… しかし葵はその長い両腕をしっかりと信の首の後ろへと回し―― 信の頭を抱え込むようにして抱きしめてきて… 「ッ、信は何もしなくていいから……  全部俺一人で準備するから…、ッ、だから…」 「…っお前はさっきから何を…」 葵の言っている事の意図がつかめず… 信は葵の肩をグッと押して葵の顔を伺い見る… すると葵は涙で潤む瞳を信に向け―― 「ッ…怖いんでしょ…?信……男を抱くのが…」 「…ッ、」 「だから“覚悟”が必要なんでしょ…?」 「ッ違うっ!俺が恐れているのはそう言う事じゃ――」 ―――いや……確かに男を抱くことに躊躇いがあるのは事実だが――    だが違うんだ葵…    俺が恐れているのはそういうんじゃなくて…    お前と“そういう事”をしようものなら――    必然的に俺の隠している“裏の顔”をお前に知られてしまうのが怖いから…    だから俺は…ッ、 「ッ…、」 葵の肩を掴む信の手に力が入る… すると葵が再び信の唇を(ついばみ)み始め―― 「…大丈夫だよ信……心配しないで…?  怖い事なんて…ンっ……何も…ないから…」 「ッ…なに…?」 「…信はただ…横になってくれているだけでいい…  あとは全部俺がヤル…、  解すのも…(ひろ)げるのも…  最後は信が()れるだけってところまで…、ッ、  全部俺がするから…っ、」 葵は小さく震えながら言葉を続ける 「なんだったら信のを挿れるのだって自分で挿れるし…、ッ、挿れたあとだって――  俺が動いて……信を気持ちよくさせてあげるから…、  ッ、だから…!」 「ッ!?ちょっ…ちょっと待て葵っ!  お前っ…なんて事を言うんだ…ッ!」 葵の口から次から次へと飛び出す卑猥な言葉に信は焦り… ―――ここまで…、ッ、    ここまで俺は――葵の事を追い詰めてしまっていたのか…?    葵に…こんな事を言わせてしまうくらい俺は―― 葵の肩を強く掴みながら 自分自身の余りの情けなさに信は思わずギリッ…と歯噛みする… するとそんな信の反応をどう受け取ったのか 葵は顔を白くしながら信の事を見つめ―― 「…怒った…?」 「―――え…?」 「ッ俺が…、ッ、信がしたくない事を強請(ねだ)ったから…  だから……怒っちゃったの…?のぼる…」 ただでさえ潤んでいた葵の瞳からポロポロと涙が溢れだし… 信は慌ててその涙を親指の腹で拭う 「ッ違うんだ葵!怒ってない…」 「…ホント…?」 「ああ……ただ俺は――  お前にはもう少し…自分の事を大切にしてほしいと思っただけだ…    …全部自分一人でやるとか……そういう事は言うな。  俺が――情けなくなるだろうが…お前にそんなことまで言わせて…」 信が葵の涙を拭い終わると 未だに涙で潤み…自分の姿を映す葵の瞳を見つめ返しながら 困ったような笑みを見せ… 「大体…こういった事は互いに高め合いながらする事に意味があるワケで――」 ―――って……俺は高校生相手に何馬鹿な事を…っ、 「ッ…」 つい口走ってしまった事に信はハッとなり―― 葵の瞳を見つめたまま固まる… そこに葵は首を傾げながら信の頬に触れ… 「…高め合う…?」 「えっ!?あ…いやぁ…その――ン”ン”ッ!まあなんにせよ…  こういった事にはお互いの気持ちが大事って事だ…  こんな――相手の気持ちを無視して…一方的に迫るんじゃなくてな…  俺が言いたい事――分かってくれるか?葵…」 信は祈るような気持ちで葵の瞳を見つめる… すると葵が静かに口を開き―― 「……………わかった。」 「ッ!分かってくれたかっ!」 葵の言葉に信はパァッ!と晴れやかな表情を見せ―― 思わず葵の身体を強く抱きしめる… そこに葵もおずおずと信の身体を抱き返しながら 信の耳元に唇を寄せ… 「…ただ――信が今日俺の気持ちに応えてくれるのを諦める代わりに――  一つだけ俺のお願い……聞いてくれる…?」 「何だ?」 「…触って欲しい…」 「…触る…?」 「そう……  信に――触って欲しいんだ…  俺の気持ちが一番素直に現れるトコロを……信の手で…」

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