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その花の意味を知った今。

葵side 「…駄目だ。」 「…どうして?」 「…どーしても!  そんな事より何時までもこんな所で突っ立ってないで  早く風呂に入って来い!後がつかえてんだから…」 「っでも…っ、」 「いいからっ!  早く行かねーと…今日は抱きしめて一緒に寝てやんねーぞ?」 「ッ!やだ…っ、」 「だったらホラ…さっさと行ってこい。」 「むぅ…分かった…」 信と一緒にお風呂に入りたいと強請(ねだ)ったあの日… 俺の中ではもう…信への想いがどうしようもないくらい(あふ)れていたんだと思う… ―――一緒にお風呂入るくらい…別にいいじゃん…ケチ。 でも俺はその気持ちをどう受け止めたらいいのかが分かんなくて… その事でずっとモヤモヤしてて… だから余計にムカついたんだと思う… 信に――一緒にお風呂を一緒に入る事を拒否された事が… ―――ただ一緒にお風呂入りたかっただけなのに…    何もあそこまで拒否しなくても…        そんなに――俺に見られたくなかったのかな…    はだか… 「………」 普通だったら“まあそうゆう事もあるよね”で受け流せるところを―― 信の事が気になって仕方がなかったあの時の俺は 信の隠し事が何だか許せなくて… ―――隠されると――余計に見たくなっちゃうよね…裸…    こっそり――覗いちゃおっかな…?…信のお風呂…    別に――構わないよね…?    同じ男同士なんだしさ… 馬鹿みたいな話だけど… 同じ男同士をという事を免罪符(めんざいふ)に―― お風呂を覗くくらい許されるだろうと思っちゃった俺は “信の身体を見てみたい”と言う誘惑に負け… ―――大体…隠す方が悪いんだよ…信のバーカ… 罪の意識はどっかに吹っ飛び… 「――お?なんだ葵……もう上がったのか?」 「…うん……信次入ってイイよ?」 「よし……それじゃあ入って来るか!」 パンッ!と膝を叩いてソファーから立ちあがり… 俺の横を通り過ぎて行く信をドキドキしながら見送った後… 俺は湧き上がる興奮を抑えながら 信の後をこっそりとつけたんだ… ホント…馬鹿みたいだよね。 広い家の中… 同居人の男の裸見る為にコソコソするなんてさ… さしずめ気分は修学旅行で女湯覗こうとしている男子中学生みたいな気分だったよ… もっとも――今時そんな事をしようとする男子中学生なんていないだろうけど… ………いないよね? まあ兎に角俺は―― 信がバスルームに入ったのを確認すると すかさずバスルームのドアを少し開け―― 中を覗いてみたんだ… この時のドキドキ感は今も忘れられない… いけないことをしてるっていう背徳感が余計に俺の興奮を煽ってくれたせいか―― 自分に気づかずに無防備に背を向けて立つ信の後姿さえも なんともエロティックに見えてさ… 自分でも変態だなって思いながらも そんな信から目が離せなくて… ―――なんか……変な性癖に目覚めそう… 目の前でプツプツとワイシャツのボタンを外していく信の後姿を眺めながら… 信がいよいよ肩からワイシャツをスルリ…と脱ぎ始めたその時 ―――え… 見ちゃったんだ… 信の左肩から左腕の肘の所にかけ… 色鮮やかに咲き乱れる見事な赤い花の刺青を… 「ッ…」 その刺青を見た瞬間…俺は怖いというよりも―― ―――きれい… 全体的に均等に鍛えられ… まるで石膏で出来た美術品のように美しく整った信の身体に咲き誇る その赤い花に俺は見惚れたんだ… 綺麗だな…って… 「………」 その時の俺にはまだ… 信の肩に咲き乱れるその花が何だったのかも分からなかったし―― その刺青の意味も分からなかったけど… 今なら分かる。 あの花は椿で―― そしてあの刺青は――(とむら)いの意味で掘られたものだったんだなって… ※※※※※※※ 「ねぇのぼる…」 「ッ…」 俺に刺青を見られていた事を知ったのが余程ショックだったのか―― 俺を見つめたまま絶句して固まる信に、俺はそっと手を伸ばす… 「…一緒にお風呂行こ…?」 「ッお前……俺が怖くないのか…?」 「…何で…?」 「俺があんな刺青をしてるって事はつまり――」 「…信はヤクザって事…?」 「ッ…」 「…どーだっていいよ。そんな事…」 「ッお前…」 その表情を引きつらせ… 言葉に詰まりながら狼狽える信の頬に俺の指先が軽く触れる… すると信はビクッと身体を震わせ―― 驚いた様子で目を見開きながら俺を見つめると… 俺は薄く微笑みながら口を開いた 「…言ったでしょ…?  『何があっても信を離さない』って…  例え信がヤクザであっても…それは変わらないよ。  俺は信から離れないし離さない…何があっても…」 「ッ…本気で言ってのか…?」 「…本気だよ。嘘言ってどーすんの?」 「ッそれは…」 「…そんな事よりもお風呂行こ?身体が冷えちゃった…  あっためてよ…のぼる…」

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