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護衛。
バスルームから出た信がそのまま寝室に顔を覗かせると――
信の枕をギュッと抱きしめ…
未だベッドの上でモゾモゾと蠢 いている葵の姿があり――
「…葵。」
「あ…のぼる…」
「今から軽めの朝食を作るから――お前はシャワー浴びてこい。」
「ん……わかった…」
葵はムクッ…とベッドから起き上がると
枕を抱きしめたままベッドを降りようとする…
しかし
「…枕は置いてけ。」
「あ。」
それに気がついた葵は恥ずかしそうに信の枕を元の位置に戻しながら
枕をポンポンと叩き…
その光景に信はフッ…と優しい笑みを零すと寝室を後にする
―――さて…と――
冷蔵庫の中には何が残っていたっけか…
信が刺されて以降…
約四日間開く事のなかった冷蔵庫の前に
信がワイシャツのボタンをプツプツと留めながら立つと
ゆっくりと冷蔵庫の扉を開けながら中を確認する
―――ん~…大したもん入ってねぇ~なぁ~…ま、当然か…
俺が入院している間――食材宅配サービス止めてたし…
信が冷蔵庫内を見回しながら、それとなく冷蔵庫のドアの内側に目をやると
そこにはまだ7個も残っている卵が見え…
―――げっ…この卵……もうすぐで賞味期限が切れるじゃねーか…
…だったら決まりだな。チーズもある事だしチーズオムレツにして――
あとは……ウィンナーと玉ねぎ半分…レタス一玉とミニトマトか…
まあ…これだけあれば十分かな。
ウィンナーと玉ねぎはオムレツとコンソメスープに使うとして…
後はサラダにでもするか…オムレツで使い切れない卵もゆで卵にして。
信がパパっと朝食のメニューを考え――
早速その準備に取り掛かろうとしたその時
ブブブブブ……ブブブブブ…
―――ん?
カウンターに置いておいた信の携帯が震えだし…
信が画面に目をやると、そこにはコンシェルジュの西崎の名前が表示されてて――
ピッ…
「…はい。」
『斎賀様。片瀬様がお見えになられておりますが…』
「!」
―――もう着いたのか…
「では上がってくるようにと彼に伝えて下さい。」
『かしこまりました。』
ピッ…と通話をが切れると
信は構わず朝食の準備に取り掛かった…
暫くして…
ピ~ンポ~ン…というインターホンからの呼び出し音が聞こえ
信はボウルを持って中の卵をかき混ぜながら
近くのインターホンのモニターで玄関を確認すると
片瀬がズイッとカメラに顔を近づけており…
『若ぁ~?片瀬です~。呼ばれたんで来ましたよ~?』
「おお!悪いな片瀬……こんな朝早くに来てもらって…
鍵は開いてるから入って来てくれ。」
『は~い!』
そう言って片瀬がモニターの前から姿を消すと
次に玄関から元気のいい大声が聞こえ――
「お邪魔しま~す!」
広い上に天井の高い玄関は
それはそれは声が良く通り…
「来たか。上がってくれ。」
「はーい!ではしつれ~しま~す。」
卵を溶きながらリビングからヒョコっと顔だけ覗かせた信がそう言うと
片瀬はまるで勝手知ったる我が家のように靴を脱ぎ…
さっさとルームシューズに履き替えて、信の後を追う
「…今から朝食の準備ですか?」
「ああ…
!そうだ。何だったらお前も一緒に食べるか?朝食…」
「えっ…いいんですか?」
「ああ…賞味期限間近な卵が残ってるからな。さっさと処理したいし…
迷惑でないのなら――」
「!迷惑だなんてそんな…
俺もまだ朝食食ってなかったから有難いっす!
あ!だったら俺――何か手伝いますよ?」
「そうか…?
じゃあコンソメスープの方をお願いしてもいいか?」
「りょーかいで~す!」
そう言うと二人はダイニングキッチンへと姿を消した…
片瀬が到着してから更に10分以上が経過した頃…
「のぼる~シャワー終わったよ~……あっ…」
葵が髪をタオルで拭きながらダイニングキッチンに姿を現すと
何処かで見覚えのある人物がダイニングテーブルに朝食を並べているのを見かけ…
「貴方は確か…」
「!あ、お久しぶりです葵さん!片瀬っす!
若が葵さんを菊花町駅で拾った日にお会いした――あっ!」
「?」
片瀬は慌てて自分の口を塞ぎ――
自分の後ろからオムレツを持って現れた信にチラリと視線を送る…
すると信はオムレツをテーブルの上に並べながら口を開いた
「…別に“若”って呼んでも構わないぞ。
葵にはもう…俺がヤクザである事がバレちまったからな。」
「あ…そーなんですか…?だったら――」
「…だからといって…外で不用意に言うのは止めろよ?俺の立場は――」
「分かってますって!」
そう言って片瀬はニッコリと微笑むと、自分に用意された席につき…
信も最後のオムレツを葵の前に置くと、自分の席に腰を下ろし
葵も続いて席に着く
「さてとそれじゃあ――いただきます。」
「…いただきます。」
「いただきま~す!」
三人はそれぞれ朝食に手を伸ばす…
そんな中――葵がオムレツをスプーンですくいながら
大口を開けてオムレツを口にする片瀬に視線を向け…
「ねぇ……ところでなんで――片瀬さんがウチに居るの?」
「うぇ?」
「ああそうか…」
葵の疑問にコンソメスープに手を伸ばしていた信がその手を止め――
「実は今朝……お前が寝ている間に俺が片瀬を呼んだんだ。
お前の護衛にと思ってな。」
「…護衛…?」
「そうだ。」
信がスープカップを手に取り…スプーンでコンソメスープを一口啜ると
カップをテーブルの上に置きながら、再び口を開く
「昨日も話しをしたが――俺…ヤクザだろ?
周りには俺がヤクザだという事は隠してはいるが――
それでももし万が一俺の事が敵対組織にバレ…お前に何かあったら大変だからな。
それで片瀬を呼んだんだ…お前の護衛として。」
―――そう…昇竜会での俺の立場は極秘に扱われてはいるが――
それでも例のヒットマンや誠さんの事もある…
いつ何時 敵対組織に俺の情報が洩れ――
襲ってくるかもわからんからな…
だからこれからは――葵の身の安全にも気を配らないと…
なんせ葵は今の俺にとって大切な――
「のぼる…?」
「!ああスマン。それに……
あの時の事は余り話したくはなかったがお前――
攫 われただろ?覆面の男達にさ…」
「…ッ!」
自分が連れ去れらた時の事を思い出してしまったのか葵の表情が暗く沈み…
そんな葵の表情に…信の表情も微かに曇る…
―――何故バウンティハンター達が葵を狙って連れ去ったのかまでは――
葵にはまだ…言わないでおいた方がいいだろう…
「ま、そんなワケだから…俺が会社とかで家を留守にしている間――
俺の不安を取り除くためにも片瀬にお前を守ってもらおうと思ってな…
何しろお前は今…携帯も持っていない訳だし…」
―――まさか自分の父親が――
自分に懸賞金をかけてまで自分を連れ戻そうとしていたなんて事を
葵が知ったら…
怯えさせてしまうかもしれないからな。
父親の影に…
だから今は――黙っていた方がいい…
「だから今日から片瀬には休日以外…毎日ウチに来てもらう事にしたんだ。
葵も――分かってくれるだろ…?」
信が正面に座る葵を伺い見るようにしながら微笑みかける…
すると葵も渋々と言った感じコクン…と頷き…
「――分かった……それで信が安心するのなら…」
「…分かってくれてなにより。」
「…けどさぁ…」
「…?」
ジットリとした葵の視線が…
我関せずといった感じに朝食をパクパクと平らげていく片瀬に向けられる
「片瀬さんって……なんか弱そう…」
「………」
「む”ぇっ?!」
サラダをモシャモシャと食べていた片瀬の手が止まる
「…それって――俺に言ってるっすか?弱そうって…」
「そーだけど?」
「っかあぁ~~~ッ!葵さんは人を見る目が無いっすねぇ~…
俺はこー見えて小さい頃から柔道やプロレスなんかを習ってた
サブミッションの使い手なんすよっ!甘く見ちゃいけないっすっ!!」
「へぇ~……そ~なんだぁ~…すご~い。」
葵は自分で煽っておいて…さして興味なさそうに片瀬に返事を返すと
オムレツをすくって口へと運んだ
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