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凍りつく空気。

「へぇ~……此処が信の…」 40階建てのビルの前で… 葵が道行く人たちの視線を気にすることなく上を見上げる すると葵の隣で一緒に上を見上げていた片瀬が口を開き… 「此処の38階から40階までが『World recovery』が入るフロアっすね。  …どうします?入って若……じゃない斎賀さんに挨拶でもしていくっすか?」 「ん~~……いい。信の仕事の邪魔…したくないし…  それよりお昼食べに行こ?美味しい中華の店がこの辺にあるんでしょ?」 「…美味しいかどーかは入った事ないからわかんないすけど…  口〇ミじゃあ…美味しいって評判の店みたいっすよ?」 「そうなの?だったら早く行こ!俺マーボー食べたい!」 「お!いいっすねぇ~…そーいや美味しい中華の店を知るにはまず  麻婆豆腐が美味しいかどうかで判断しろって誰かが――」 片瀬と葵は他愛もない話をしながら―― 美味しいと評判らしい中華の店を目指してその場を離れた… 「フゥ~…やぁ~っと中には入れたっすね…」 「…長かったね…」 「「いらっしゃいませ~!」」 二人が目的の店に辿り着くと 店の前は昼時という事もあって既にそれなりの人が列を作って並んでおり… 二人が20分ほど並んでようやく店の中に入ると 店の中は予想通り多くの人たちで賑わっていて―― 「…ん?あそこに居るのって――  若じゃないっすか?」 「若って――信の事?え…ドコドコ?!」 「ホラ、あそこ…」 「…?」 葵が片瀬が小さく指で指し示す方を見てみると… 恐らく4人掛けと思われる円形テーブルの席に着く信と―― そしてもう一人の姿が目に入り… 「!?」 それを見た瞬間… 葵はムッとした様子で信たちの方へと歩き出し―― 「!ちょ待ってっ…葵さん!」 片瀬も慌ててその後を追う 「…信。」 「…!」 「!葵…?何でお前が此処に…」 突然の葵の乱入に… 信は驚いたように葵を見上げ―― 向かいの席に座っていた仁は その表情に若干の不機嫌さを露わにしながら葵の方を見つめる… するとそこに店の案内係と思われる店員が 勝手に客席に向かった葵達に慌てたように駆け寄り… 「お客様。まずは我々が席へとご案内いたしますので――」 「あ、彼らは俺の連れなんでご心配なく…」 「!失礼しました。では今からメニューをお持ちしますね?」 「お願いします。」 信が機転を利かせて店員にそう言うと 店員は一礼してからその場を離れ… 信は未だにその場に突っ立っている葵たちに向け 「何してる?ホラ、早く座れよ。」と言って開いている席に座るよう促すと 片瀬は信たちに頭を下げながらおずおずと… 一方の葵はむくれっツラをしながらそれぞれ開いている席に腰を下ろした 「――で?何でお前たちがこの「信。」 「……ん?」 信が何で二人が此処にいるのかと尋ねようとしたその時… 信の言葉を遮り……何処か剣呑とした空気を帯びた葵が信を呼び―― 「…信こそなんで此処にいんの?」 「なんでって……腹が減ったから?」 「ッそーじゃなくて…っ!なんでひとくんなんかと一緒に――」 「メニューをお持ちしました。」 その場の空気などまったく読む気のない店員がにこやかに 後から席に着いた葵たちの分のお冷とおしぼりをテーブルの上に並べ… そして最後にメニューをスッ…とテーブルの上に置くと 「お決まりになられましたらまたお呼びください。」と言い残して去っていき… それを見届けた信がお冷を口にしながら葵たちに向け 「お前たちも昼めし食いに来たんだろ? 俺達はもうとっくに注文を済ませたから―― お前たちも早く選ぶといい。あ!ちなみに此処のお勧めは仁曰く 麻婆豆腐と担々麺……あと上海蟹を使った小籠包なんだと。」 …などとにこやかに話すもんだから 葵はますます不貞腐れた様子でメニューを広げ―― 適当にメニューを見つめながら再び口を開いた 「…それで?なんで信がひとくんと一緒に此処にいんの?」 「ん?ああ……別に大した事じゃないさ。  ちょっとコイツが俺に用があるからと言って尋ねてきて――  それでその要件が終わった頃、丁度昼時だったから  二人で昼飯にでも行くかって話になって…  そんでその流れで仁と二人で此処に昼飯を食いに来たってワケ。」 「ふぅ~ん……で?ひとくんは一体何の用があって信に会いに?」 「…お前に言う必要はない。」 「ふぅ~ん……あっそう…」 棘のある仁の言い方に… 葵はムッとしながらメニューのページをめくる ―――ふん…どーせ用なんて二の次で――    信に会う事が目的の癖に白々しい… 「………」 葵は不貞腐れたまま次のページをめくり そこに載っている数種類の麻婆豆腐の写真を食い入るように見つめる… ―――でもまあ…    どんなにひとくんが信の事が好きで――    理由をつけて信に会いに来てみたところで…    信は自分がひとくんの事を好きになるなんてあり得ないって言ってたし…    それになにより… 「フフッ…」 「…?」 葵は昨日の事を思いだし… その口元からは不意に笑みが零れる ―――ひとくんがどんなに足掻いてみたところで…    もう俺と信の仲は引き離せないよ。    だって俺と信は昨日…    お風呂場で“お互いの大事なトコロを触れ合った仲”だよ?    しかも“信の初体験”だよっ?!    そんな信と俺の間に――今更ひとくんが入り込む余地何て    もう1ミリたりともないんだから…    ひとくんも無駄な足搔きは止めて――さっさと信の事諦めたらいいのに…        ――あ。そうだ!    だったらここは一つ牽制の意味も込めて    ひとくんが信を諦められるよう…一芝居打ってみますか!    昨日みたいに… 葵は開いたメニュー越しに悪戯っぽい笑みを浮かべると チラリとその視線を仁に向ける… すると先程から(いぶか)し気に眉間に皺を寄せる仁と目が合い―― 「……何だ?」 「…別に~?  ただひとくんって――報われないなぁ~って思って…」 「…どういう意味だ?」 「さぁ…?どーゆー意味だろ~ねぇ~…  ね~?のぼる?」 「…ん?」 突然名前を呼ばれ… 店内を見ていて話を聞いていなかった信は少し驚いた様子で葵達に視線を移すと 正面ではムスッとした表情の仁と 向かって右側の席では意味ありげな笑みを浮かべている葵が 互いに信に視線を送っており… 「悪い。何の話だ?」 「――ひとくんは報われないねって話し。」 「…報われない?何が??」 益々話が見えてこず… 信は困惑した様子で仁と葵を交互に見やる… すると葵が魅惑的な笑みを浮かべ… 「ねぇ……ところでさぁ…信…」 「ん?」 「昨日は――  のぼるの初めてを奪っちゃって……ごめんね?」 「ッ!?」 「―――何…?」 「………へ?」 突然の葵の一言に… その場の空気が一気に凍りついた…

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