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仁参戦。

「…」 「…」 「…ッ!」 葵の一言でその場に凍り付いた3人の中で… いち早く氷の解けた信は無言でガタッ!と席から立ちあがると ニコニコとしている葵の元へとスッ…と近づき… 仁と片瀬から自分たちの顔を逸らす様にして 椅子に座る葵の肩を自分の方にグッと引き寄せると―― その耳元に小さく耳打ちをした 「ッ葵…っ、お前こんな所で一体何口走ってんだ…!」 「え~?何って俺――昨日の事をどーしても信に謝りたくってさぁ…」 「謝るって…」 葵がチラッと仁の様子を伺う… するとその表情からは明らかに動揺と困惑の色が見て取れ… ―――フフン…動揺してる動揺してる!    よし。このまま作戦続行! 葵はその口角を微かに上げると―― 仁に聞こえるくらいの声量とわざとらしい口調で言葉を続ける 「だって信……昨日あんなにダメだって言って俺の事拒んだのに――  なのに俺…信の気持ちも考えずにあんな強引に迫ったうえに  信の初めてを奪っちゃったでしょ…?」 「ッ…だから言い方よ…っ、大体昨日のアレはそんなんじゃ――」 「…?初めてには変わりないじゃない?  だからさ俺…信に嫌われちゃったらどーしようなんて…  急に不安になっちゃってさ…    それで謝っとこーかなぁ~?なんて…」 急にしおらしくシュン…と項垂れる葵を前に信が狼狽える 「っま、まあ…確かに昨日のアレは多少強引ではあったが――  でもアレはお互い合意の上での行為であって…お前が謝る必要は何処にも…」 「…ホント?じゃあ信…俺の事――許してくれる…?」 「あ……ああ…、許すも何もさっきも言った通り  最初から謝る必要すらなかったんだから気にする事は――」 「良かった!じゃあさ信……今日も一緒にお風呂場で――  昨日の続き…しない…?」 「――――は?」 突然の葵のそのセリフに信は絶句し… 固まった信は暫く意味ありげに微笑む葵の瞳を 呆気にとられた様子で見つめ返していたが―― ふと我に返ると慌てた様子でその口を開いた 「ちょ……ちょっと待て葵…っ、  なんでそんな話になる…っ?!」 「なんでって…気持ちよかったでしょ?」 「ッ、」 ―――確かに……最近溜まってたし――    久しぶりに出せてスッキリしたが……    …ってちがーーーーーうっ!!    なに流されかけてんだ俺っ!! 「ッソレとコレとは話は別だ!  兎に角この話はここまで!続きはまた家に帰ってから話し合おう。……な?」 ―――周りの視線も痛い事だし… 信は内心冷や汗をダラダラと流しながら どうにかしてこの場を収めようと暴走気味な葵をなだめにかかる… すると今まで二人のやり取りを呆然と眺めていた仁が ココでようやく先ほどの葵による爆弾発言のフリーズが解けたのか―― 眉間に深い皺を寄せ… 不快感を露わにした様子で重い口を開いた 「信…」 「!な……何だよ…?」 「お前……さっきの話は本当か…?  ソイツに――初めてを奪われたって言うのは…」 見るからに怒りのオーラを身に(まと)い… 相手を射殺さんばかりの鋭い視線を葵に投げかけながら話す仁の様子に 信も流石に焦りを感じ… 「ッ誤解すんなよ?仁…  お前が何想像したのかはしんねーけど――  アレは俺が初めて体験したことを葵が大げさに言っているだけであって…  “奪われた”とかそんな御大層(ごたいそう)なもんでもねーからな!?  そもそも昨日のアレは合意の上で行った行為なワケなんだし…」 「合意…」 その言葉を聞いた途端仁はギリッ…と奥歯を噛みしめ… 何かを思いつめたかの様に微かに俯く… だが次の瞬間 「………信。」 「ッ…なんだよ…、」 低く地を這うような仁の声に信がたじろぐなか… 仁が俯いたままゆっくりと席から立ち上がり―― 葵の傍で立ち尽くす信の肩をガシッ!と掴むと… 信の顔を身体ごと自分の方へと向けさせ… 完全に据わった瞳で信の顔を見据えるながら静かにその口を開いた… 「俺も今日から――    お前のところで世話になる。    これ以上――お前を“弟”の好き勝手にさせとくワケにもいかんからな。」

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