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羊と牧羊犬と狼?

「!?」 「………はあ?」 突拍子もない仁の発言に呆気にとられた信は 怪訝な顔で正面に立つ仁の顔を凝視し… 仁はそんな信にフッ…と微かな笑みを見せた後… 椅子に座り…驚いた顔をして仁を見上げる葵にキロリ…と視線を向けると その口元に微かな弧を描き… 再び信に視線を戻しながらその口を開いた 「…駄目とは言わせないぞ?信…  俺に――深くは探られたくは無いだろ?……そこの“弟”の事で…」 「ッ!それは…っ、」 「!」 ―――ひょっとしてコレって――    ひとくん…俺の事を出しに信の事…脅してるっ?! 「ちょっと…っ、」 “弟の事”と言われ…明らかに狼狽えだした信の様子に―― 自分の事で信が窮地に立たされていると察した葵が すかさず二人の間に割って入ろうとする しかし… 「ッ…待て…葵…」 「ッ!?信…?」 「いいから…ちょっと待て。」 「う…」 信の制止に葵はそれ以上口出しすることが出来ずに押し黙り―― 信は口に手を当て…眉間に皺を寄せながら考え込む ―――確かに…葵の事を仁に探られるのは厄介だが――    だがそれよりも… 『その代わり――  俺のせいで仁が厄介ごとに巻き込まれた時に…助けてやって欲しい…』 「………」 信の脳裏に… 何時ぞやの誠との会話内容が過り… ―――一体仁が何に巻き込まれようとしているのか想像もつかないが―― 『――で……どーするよ…?もし仁を助けると約束をしてくれるのなら――  “その時”が来た時にお前に証拠の写真と俺が掴んだ情報をくれてやるよ。  タダで。』 ―――仁を守る事が出来れば俺は――    俺がこの6年…ずっと探し求めていたモノが手に入る…    その為にも――    仁は俺の傍に置いておいた方が… 「………」 「…どうする?信。」 「っダメに決まってるでしょ?!ダメに決まってるよね?信!」 「…お前になど聞いてない。  この……羊の皮を被った狼が。」 「はっ!俺にそーゆー事言うんだったら  ひとくんだって牧羊犬の皮を被った狼じゃない!」 「…何?」 信の考え込んでいる横で… 突如として葵と仁の口論が勃発する 「知ってるんだから!  ひとくん酔っぱらった信をウチに連れ帰った日――    信の事…襲おうとしてたでしょっ!」 「ッ……くだらない…  何を根拠にそんな…」 「…ニヤけてた。」 「………は?」 「ひとくん信の事見つめながら(いや)らしくニヤけてたっ!  エロオヤジみたいにっ!!」 「っ言いがかりにも程が――」 「be quiet!」 「!」 「ッ…」 眉間に皺を寄せた信が二人を一喝し―― 言い争っていた葵と仁も流石に黙り込む… そこに信が静かに口を開き… 「仁…少し――考えさせてはくれないか…」 「!信っ?!」 「……少しとは?」 「…二日くらい。」 「…いいだろう。  俺も色々と準備をしないといけないからな。  その代わり――」 「…?」 「くれぐれもそこの羊の皮被った狼には用心しろよ?  よもやお前がそいつに食われるような事があったら――」 「…本気で言ってんのか?俺が葵に食われると?  だとしたら眼科医行け。  どう見ても葵は可愛い子羊で――俺が狼だろうが…まったく…」 「………お前こそ眼科行け。  そして瓶底眼鏡(びんぞこめがね)にでも変えるがいい。  良く見えると思うぞ?そこの羊だと思ってるヤツの正体が…」 「!ちょっとひとくんっ!」 「…何だ?羊。」 「信に瓶底眼鏡何て似合うわけないでしょ?!  変なの勧めないでよ!センスないなぁ~…」 「……そーゆー事を言ってるんじゃないと思うぞ?葵…  ところで――」 「…?」 「…今時瓶底眼鏡なんて売ってんのか?」 「知らん。」

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