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伝家の宝刀。
「楽〇市場で400円台から売ってるっすよ!瓶底眼鏡!」
「…」
「…」
「…」
スマホの画面を信達に向けながら満面の笑みでそう話す片瀬に
三人の冷たい視線が突き刺さる…
「………アレ?買うんじゃないっすか?瓶底眼鏡…」
「…買わねーよ。そもそもパーティーグッズだろーがソレ…」
「確かに。――え~でも見たかったのになぁ~…
ムカつくほどイケメンな若がコレかけてるところ…」
「………若?」
片瀬の言葉に仁の眉尻がピクッと跳ねる…
そこに料理を乗せたお盆を持った店員が信たちのテーブルへと近づき――
「失礼します。
コチラ担々麺がお二つに青椒肉絲がお二つ…6個入り小籠包がお一つ…
あと食後に花黄茶をお持ちしますが――以上でよろしいでしょうか?」
「あ、ハイ。以上で。」
立ったままだった信と仁が何食わぬ顔でスッ…と席へと戻ると
店員は運んできた料理を信たちの前に並べていき…
それらが終わると店員はにこやかな視線を葵と片瀬に向けながら
注文票を取り出し、口を開いた
「そちらのお二方はもう…注文の方はお済ですか?」
「あ!俺は――」
まだ何も決めていなかった葵は慌ててメニューに視線を走らせた…
※※※※※※※
時刻はもうじき13時を回ろうかというところ
中華の店を出た4人は人気の少ない裏路地を歩きながら信の会社を目指す
「ふぅ~…スゲー美味かったすねさっきの店…」
「だね。名物の白い麻婆豆腐がちゃんと麻婆豆腐してて驚いた!白いのに。」
「…しかし俺の会社の近くにこんな美味い中華の店があったとはな…
知らなかった。」
「…どうせお前の事だ。昼食は適当にデリバリーか――
もしくは仕事に熱中しすぎて食わないかのそのどちらかだったから
今まで知らなかったのだろう…こんな近所にある有名店を…
しかも夜は夜でキャバクラで遊び惚けるとかで碌に食っていなさそうだしな。」
「!最近はそんな事はないぞ?
昼食は確かに適当だが――夜は葵の為に出来るだけ家で食う様にしてるし…」
「………」
“葵の為に”という信の一言に仁の眉間に微かな皺がよる…
そんな中、信たちの進行方向から
複数人の話し声と共に足音が近づいてくるのが聞こえ…
「!アレぇ~?そこにいるのってもしかして……葵ちゃん…?」
「ッ?!」
その声に葵は一瞬ギクッ!と身体を強張らせ――
声のした方に恐る恐る顔を向けると
そこに居た10人前後の若い男たちが一斉に騒 めきだし…
「ホラっ!やっぱり葵ちゃんだ!」
「ホントだ……暫く学校で見なかったからてっきり辞めたのかと…」
「スゲ~!相変わらずキレーな顔してんなぁ~…葵ちゃん…」
男たちは葵の事をジロジロと眺めながら思い思いの事を口にする…
そんな男達の様子に葵は怯えた様子で後ずさると
信の後ろにスッ…と隠れ…
「…?葵…?」
「アレ~?葵ちゃ~ん……何で隠れちゃうんだよぉ~…
せっかく久しぶりに会えたっていうのに釣れないなぁ~…
っていうかそこのオッサン誰だよ。」
「…あ”?」
集団の先頭に立つ男が信に向けて言い放った言葉に信は思わずムッとし…
剣呑とした眼差しを男達に向けながら信が口を開く
「そーゆーお前らこそ何者だ?
さっきから妙に馴れ馴れしく葵の名前を口にしている様だが…
葵の知り合いか…?」
―――しかもかなり柄が悪そうに見えるが…
信が不審に思いながら目の前の男達を見やる…
すると先頭の男がゆっくりと葵達に歩み寄り…
ニッと笑いながら再び口を開き――
「知り合いも何も!俺ら葵ちゃんのお友達だよ。
お・と・も・だ・ち!
なぁ!そうだよなぁ?葵ちゃん。」
「…そーなのか?あお…「ッ、ちがうっ!」
信の後ろにピッタリと張り付くようにして隠れてた葵が
信の着ているコートの裾をギュッと握りしめながら叫ぶ様に否定する
「ッ…あんな奴等……友達なんかじゃ…ッ、」
「…オイオイひっでぇ~言われよう…傷ついちゃうなぁ~俺達…
けど――」
「ッ、」
近づいてきた男がニヤけながら信の後ろに隠れる葵に手を伸ばす…
「今日の俺らは気分が良いんだ…
なんたって何時も俺らから散々逃げ回ってきた葵ちゃんを
こんな所で捕まえる事が出来たんだから…
県二つ跨 いでコッチに遊びに来たかいがあったってもんよ。
しかも今日はお前を何時も守ってるあの大男はいないみたいだし…
こんなチャンス滅多にないからな。
今日こそは――俺達に付き合ってもらうからな?なぁ…葵ちゃん…?」
更に伸びてきた男の手に怯え…
葵はその手を避ける様に益々信の後ろにその身を隠そうとする…
そんな葵の態度に男は「チッ、」と舌打ちをし
信を押しのける様にして強引にその手を葵に伸ばそうとしたその時…
「…おい。」
信が葵に伸びる男の手首をパシッと掴み取ると――
スッ…と鋭い視線を男に向ける
「…何俺を無視して俺の連れに手ぇ出そうとしてんだよ…」
「…あ”あ”?何だよオッサン……
アンタにはカンケーねーだろ?邪魔すんじゃねーよ…
コッチは葵ちゃんに用があるんだから…」
男は信を睨みつけながら自分の手首を掴んでいる信の手を振り払おうとする…
しかし信の手は振り払うどころか
更に強くギリッ…と男の手首を掴み上げてきて――
「い”っ…」
「……カンケーねーワケねーだろーが…クソガキが…」
低く冷たい声と共に信は掴んでる男の手をギリギリと締め上げる…
すると男は堪らず後ろに居る男達に向かって大声で助けを求めた
「オイッ!何やってんだよお前らっ!!見てないでさっさと助けろっ!!」
「「ッ!」」
その声に後ろに居た男達はハッ!となり…
一斉に信めがけて駆け出そうとしたその時――
「…管轄外なんだがな…」
仁がボソッと呟きながらスーツの内ポケットに手を入れ…
黒い手帳と共にその手を引き抜くと
ヤレヤレといった感じの溜息をつきながら男達に向け…
その手帳を開きながら静かに口を開いた
「――警視庁捜査一課の真壁だ。
全員動くな。」
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