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不機嫌の治し方。

「ただいま~」 例の不良グループに絡まれた後… 葵達と別れ――特に何事もなくその日の仕事を終えた信は 足早に葵の待つマンションへと帰宅し、リビングに顔を覗かせる… すると丁度そこに帰ろうとしていた片瀬と出くわし―― 「あっ…若!お疲れ様です。  今日お借りしたマセラティの鍵はリビングボードの上に置いときました。」 「ん。ごくろーさま。…ところで葵の様子は――」 「それが――見て下さいよ…」 「…?」 片瀬が身体をスッと横に逸らすと その先のソファーでのぼるくんをギュッと抱きかかえて座る葵の姿が見え… 「…昼に若と別れてからずっとあんな調子っすよ。」 「…なんだアイツ……まだ不貞腐れてんのか…?  ――つかのぼるくん届いてたんだな。」 「はい……にしても葵さんがああなったのは全部若が悪いんすよ?  恋敵と一緒に住むかもしれない事をその場で否定しないから…」 「っ恋敵ってお前な……仁とは別にそんなんじゃ――」 「葵さんに言ってやって下さいよ。俺に言い訳しても仕方ないでしょ?  んじゃ!俺は帰りますんで。お邪魔しました~!」 「あ!ちょっ…オイ片瀬!」 そう言うと片瀬はヒラヒラと手を振って玄関へと向かい あとに残された信は気まずげにチラッと葵に視線を向けると―― 葵が慌てて信から視線を逸らし… プクっとふくれっ面のままのぼるくんの頭に顎を乗っけている姿が見え… 「ハァ…」 ―――確かに俺があの時仁の提案を否定しなかったのが悪いんだが… 「葵…」 「…知らない。」 「そー怒るなって…」 信がネクタイを緩めながら葵に近づくが―― 葵はのぼるくんを抱きしめたまま身体ごと信から背を向け… 「ハァ~…まいったねこりゃ…  だから言ったろ…?まだ仁と一緒に住むと決まったわけじゃねぇって…」 「…決まってはいないけど――  でも…信悩んでるじゃん……ひとくんと一緒に住む事…  ねぇ…なんであの時拒否しなかったの…?」 「…またその話しか…」 信は葵の隣に腰を下ろし、隣に座る葵の様子を伺うが 葵は頑なに信に背を向け… ―――まあ…葵からしたら納得がいかないのも分からんでもないが… 「ハァ…」と信は小さな溜息をつくと 今から数時間前の葵とのやり取りを思い出す… それは例の一件の後――仁と別れ…葵達が信の会社に来る為にと 足として(信に無断で)使用したマセラティを停めたコインパーキングに 三人で一緒に向かう途中での出来事… 信と葵はちょっとした口論をした 『…何で“考える時間をくれ”なんてひとくんに言ったの?』 『ん…?何の話だ?』 『…とぼけないでよ…ひとくんが一緒に住むって言いだした時の話!』 『ああ……アレか…』 『信が拒否すればいいだけの話なのに…  なのに何で拒否しなかったの?!…なんか理由でもあるワケ?』 『それは――』 信は答えに(きゅう)し―― 思わず視線を宙に彷徨(さまよ)わせる… ―――参ったな……何て答えりゃいいんだ…?    まさか「仁が何者かに狙われている可能性があって――    そんな仁を守る事が出来たら俺の欲しかったもんが手に入るから    だからすぐには拒否出来なかった。」なんて…    なんか言い訳じみててスッゲー嘘くさい上に――    そんな事話したら葵を不安にさせるだけだから言えるワケねーし…    第一その提案をしてきたのが葵を連れ去った誠さんで――    しかも仁はその誠さんの弟っていう…    ますます言えるワケねーわ…こんなの… 『…信?』 『!――うんまあ……でも考える時間はあと二日あるワケだし…  その間に仁の考えも変わるかもだろ?  だからそんな目くじら立てんなって。な?』 『ンもうっ!答えになってないよっ!どーすんの?!  もしひとくんの考えが変わらず――信も結局OK出しちゃって  三人で一緒に住むことになったら…    俺ヤダよ?  三人で同じベッドに川の字になって寝るの!』 『!うっわそれは――』 信の脳裏に… 180超えの男三人が直立不動で川の字になってベッドに並ぶさまが浮かび―― 『ひっでぇ…絵面……  でも安心しろ。仁には客室で寝てもらうから…』 『ッ!ホラァ~!やっぱり信はもうひとくんと一緒に住む気満々じゃん!!』 『ッ!?違うって!俺は別にそんなつもりじゃ――』 その後信は葵をなだめすかし… 何とかその場は誤魔化すことが出来たが―― 「ハァ…」 信はもう一度溜息を吐き出すと 自分に背中を向けて不貞腐れる葵を背後からそっと抱きしめる… 「ッ!」 「葵…」 信は背後から葵の肩に顎を乗せ… 葵の頬に軽く自分の頬をすり寄せながら甘く囁くような声で言葉を続ける 「悪かったって葵…」 「………」 「確かに俺が断れば済む話なんだが――  でもな…?俺にもちょっとした事情があってだな…」 「…そのちょっとした事情って…?」 「ん~~…まあ…それは――アレだ…  今はまだその事情は言えないが――兎に角それらを考慮したうえで  この二日間で仁をどーするか決めようと思っているんだが……  ダメか…?」 「…ふぅ~ん……まあ信がそこまで言うんだったら――  とりあえずこの話は今は保留って事にしといてあげなくもないけど……  でもその代わり――」 「…?」 葵は今まで抱えていたのぼるくんを自分の座るソファーの横に置き 代わりに別のモノを握ると、勢いよく信の方に振り向いた 「ジャ~~~ン!」 「ッそれは……水族館でのぼるくんと一緒に買ったTシャツ…!」 「そう!これからお風呂の後  約束通りコレでペアルックしてくれたら許してあげる!  あ!それと今日のお風呂も当然俺と一緒に入るんだからね?拒否はナシ!」 「フッ……ああ…分かった。」 ―――それで葵の機嫌が直るのなら安いもんだ…

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