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御手洗。

久米side 「ふむ…」 ―――やはりこの件…御手洗が何らかの形で関わっているとしか思えないな… 隠れ家として用意した高級マンションの一室で 久米がロココ調のソファーに腰を下ろし… 一連の行方不明に対し久米が河野に調べさせた資料に目を通しながら 井上の淹れてくれた紅茶を一口(すす)る… ―――この報告を見るに…    “M氏への納品リスト”に名を連ねる昇竜会絡みの行方不明者13人のウチ    加納を含めた9人が行方不明になる直前――    俺の記憶していた通りやはり御手洗と何らかのトラブルを起こしている…    しかもそのトラブルの発端は加納の時とほぼ同じ。    御手洗からによる告発… 河野が調べた資料によると… 行方不明になっているその9人どれもが―― 御手洗の経営しているホテルやクラブなどでの麻薬の密売の現場だったり 密輸品を横流ししている現場であったり… または組に無断で売春の斡旋(あっせん)をしている現場だったり当を 監視カメラに捉えられ… その後、それらの映像を元に御手洗に追及された結果―― 彼らは組での居場所を失い…行方を(くら)ませたとされ… これらすべての状況が加納の時と重なり―― 久米は眉間に皺を寄せる… ―――“M氏への納品リスト”…    そしてそのリストに合わせたかのように    “御手洗とのトラブルによって失踪した9人の組員”…    これだけではまだ決め手に欠ける気もするが――    それでも御手洗とM氏との“繋がり”を疑うには十分すぎるだろう…    ここは一つ…今組員達に追わせている江口の行方と並行して    御手洗の動向も探らせるべきだろうな。    上手くすればM氏の正体も掴めるかもしれないし… 久米が紅茶をもう一口啜りながら 上から下まで並ぶ名前をゆっくりとなぞるように見つめる… ―――それにしても加納以外は全員下っ端だったとはいえ…    俺がもう少し御手洗の周りでのみ頻発する不祥事を怪しんでいれば…    あるいは信が言う様に監視カメラの映像を疑い――    信にそれらを調べさせていれば何か変わっていたかもしれないというのに…    悔やんでも悔やみきれないな…彼らに対して… カチャ…っとティーカップをソーサーの上に置き ソファーの背もたれに寄りかかりながら久米がその瞼をそっと閉じる… するとコンコン…という控えめなノックの音が久米の耳に届き… 「親父……ちょっと見ていただきたいものが…」 「…入れ。」 「…失礼します。」 ドアを開けた井上が、写真と思しきものを印刷した一枚の紙を手に ソファーで目を閉じて座る久米の元へと静かに歩み寄り―― 「…親父……コレを。」 「ん……なんだ…?」 久米が閉じていた瞼を開け… テーブルを挟んで正面に立つ井上から手に持っていた紙を受け取ると 久米はその紙に印刷された写真に視線を移す… すると久米の眉間に再び皺が寄り始め… 「何処でコレを…?」 「SNSです。」 「えすえぬえす…?」 「例のヒットマンと依頼人が公園近くの監視カメラに捉えられたあの日――  実は近くの別の場所である有名人を招いたイベントが開催されていたそうで…  その写真は私の娘がそのイベントに参加した際に偶然撮影し――  今日“偶然”ソレが娘のSNS上に上がっているのを私が見つけてしまいまして…」 「偶然…」 偶然を強調する井上を後目に、久米が再び紙に印刷された写真に視線を移す… それは写真の一部を拡大したと思われるもので―― そこに写っていたのは監視カメラの映像に映っていた “例の指輪をつけた依頼人”とまったく同じ格好をした男性が 指輪をつけている方の手で帽子を脱ぎながら 待ち合わせをしていたと思われる男性に話しかけている現場で… 「御手洗…」 カフェの椅子に腰を下ろし… 帽子を脱いでいる男の方を見上げているその男性は 見間違えようもない御手洗の姿で―― 「帽子脱いでいるヤツの方も見覚えがあるな……  確か――高木だったか…榎戸(えのと)組の№2で  王凱(おうがい)の補佐をしている…」 「…恐らく。」 「何故コイツ等が一緒に…  いや、それよりもコレで誰がヒットマンに依頼をしたのかが分かったな。  服装だけなら似てるで済む話だが――  “榎戸組特注の指輪”までバッチリと映り込んでいては  流石に言い逃れ出来んだろう…」 写真の男達を見つめる久米の視線がスッ…と細くなる… 「…それでは親父……いかがなさいますか?  すぐにでも榎戸組に組員を送り込み――高木の身柄を確保しますか?」 「………いや。」 久米が小さく「フゥ…」と息をはきながら写真から視線を逸らすと そのまま井上にその視線を向ける 「…何故高木が御手洗と会っていたのかが気になる。  ここは一つ高木は泳がせておき――  御手洗とどんな関係にあるのかを他の奴に探らせた方が良いだろう…  ああ!それと――」 「…?」 「御手洗の動きも気になる…  信頼のおける奴に御手洗の動きを探るよう頼めるか?  …当然コチラの動きがヤツにバレないように…」 「…分かりました。手配しときます。」 「…頼んだ。」 そう言うと井上は早速部屋を後にし―― 後に残された久米は冷めた紅茶に口をつけながら 写真の男達に鋭い視線を送った…

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