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思わぬ訪問者。

―――のぼる…絶対怒ってた… 昨夜……葵はウキウキ気分で信と一緒に風呂に入り―― 事の流れで二人の気分は再びあの時の様に盛り上がり… 甘く痺れる様な興奮が二人を包み込む中 どちらともなく互いの陰部に手を這わせ… この前の様にたどたどしい手つきで互いの陰部を弄り合っていたその時 『…ねぇ…ンッ…、…のぼる…?、』 『ッ……ん…、?』 風呂の中で互いに啄むようなキスを交わしながら―― 葵がふわふわとした夢見心地のような気分を味わう中で… 信にふと、ある言葉を囁いた… 『ふぇら……してあげよっか…?』 『………ッ!?』 それは単純に葵が信にもっと気持ちよくなって欲しくて出た言葉だったのだけれども 次いで葵の口から出た言葉に 信の表情は一変した 『おれ……上手いらしいよ?フェラ……  だから――』 『ッ!………いい。』 『え……なんで…?』 『…』 『のぼる…?』 『…先に上がる。  お前は構わずに入ってろ。』 『えっ……え…?』 ザバァッ!と狼狽える葵の目の前で信が勢いよく風呂から立ち上がると そのままタオルを腰に巻いてさっさと出口に向かって歩き出し… 葵も慌てて信の後を追うと、その腕を両手で掴んだ 『っ急にどーしちゃったの?!のぼる…  俺……なんかマズイ事言った…?信の気に障るような事言っちゃった…?』 『ッ…そんなんじゃない。  いいからお前は風呂に入ってろ。…風邪ひくから…』 『っでも…!』 『いいから気にすんなって。  じゃ!しっかりあったまれよ!』 『あ…』 そう言うと信はさっさとバスルームを後にし… 一人残された葵は悶々とした気分を引きずったままお風呂に浸かる事に… そのあと風呂から上がった葵が例のTシャツを着てリビングに戻ると 信もお揃いのTシャツを着ていて葵がホッとしたのもつかの間 やはり信の態度が何処かよそよそしいというか怒っているようで―― 『のぼる…?』 『お…上がったか。ココア淹れたからお前も飲むか?気分が落ち着くぞ?』 『あ……うん…    それよりもね?信…俺――』 『じゃあ俺…明日早いからもう寝るわ。  お前もこれ飲んだら早く寝ろよ?ホラ…』 そう言って信は淹れたてのココアの入ったマグカップを戸惑う葵に手渡すと 自分は足早にリビングを後にし… 『のぼる…』 再び一人…リビングに取り残されてしまった葵は 淹れたてのココアが入った温かいマグカップを両手で持ったまま途方に暮れる事となった… ―――それでも昨夜は一緒に寝てくれてたし――    今朝も普段通りにしか見えなかったけど…        でも……分かるんだよ……    信…絶対怒ってたって…    俺――そんな信を怒らせるような事言った?    俺はただ…信にフェラしてあげるって言っただけなのに… 「ハァ~…」 葵は昨夜お風呂で信が怒った原因が分からず… 深い溜息と共にズザー…っと上半身を滑らす様にしてテーブルの上に突っ伏す… ―――それとも信――フェラが余り好きじゃなかったとか…?    でもそれだけであんな態度とる…? 「ハァ~もぉ~……分っかんないよぉ~…」 「…さっきから溜息ばっかっすね。葵さん…」 「……そ~お~…?」 リビングのテーブルに突っ伏す葵に キッチンから二人分のコーヒーを淹れて戻って来た片瀬が 「どうぞ。」と言って突っ伏す葵の横にそっと置くと 自分は葵の横で立ったままコーヒーを一口啜る 「…なんかあったんすか?  若も今朝家出て行くときちょっと不機嫌そうに見えましたし…」 「…やっぱそー見えた…?」 「はい…」 「ハァ~…」 葵は再び気落ちし―― ますますベタ~っと突っ伏しているテーブルと一体化し始める… 「…よく分かんないっすけど…  昨日の恋敵との同居の事でまた揉めたんすか…?」 「ん~~~?そんなんじゃないよ…  まあ…その事もまだ糸引いてるっちゃ~引いてるんだけども…」 「…?」 「――ねぇ……片瀬さん…ちょっと聞いても良い…?」 「…なんすか?」 テーブルと一体化していた葵が顔だけ動かして片瀬の方を見る 「…片瀬さんてさぁ~……  ふぇら好き…?」 「ブフォッ!!!」 葵からの思わぬ一撃に… 片瀬は口に含んでいたコーヒーを盛大に吹き零してしまい 床に敷いてた黒いラグマットが大惨事に… 「あ~あ…」 「ゴホッ…ガハッ、、あ”…あ”お”い”さん…っ、  ゲホッ…いきなり、なんて事……聞くんすか…っ!」 「ん~……ちょっとね……気になっちゃって…  それよりも大丈夫…?」 「な……なにが…」 「そのラグマット…  早く拭かないとシミになるんじゃ…」 「あ”あ”っ!!」 片瀬は手に持っていたコーヒーカップをテーブルの上に置き―― 慌ててキッチンから布巾を持ってリビングに舞い戻ると まるで土下座でもする勢いで自分がコーヒーを零したと思われるところを 布巾でポンポンと叩き始め… 「やばいやばいやばい!  シミになったら若に殺される…っ!」 「…片瀬さん、片瀬さん。」 「なんすかっ!」 「そのラグマット――洗えるよ?」 「!?」 「あとね~…掃除機で水分と汚れも取れるやつ。」 「も”ぉーーーーーっ!ソレ早く言ってくださいよぉ~…  心臓が縮むかと思ったじゃないっすかぁ~~…」 「フフッ…」 「………笑い事じゃないっすよも~…  元はと言えば葵さんが変な事聞くから――」 「おや……  キミたちは一体誰だい…?」 「え……」 「…え?」 葵と片瀬しか居ないハズのリビングに突然… まったく聞き覚えのない第三者の声が聞こえ―― 葵と片瀬が驚いてバッ!と声のした方に振り向くと そこにはやはり見覚えのない…… しかし誰かに似ているような長身の男性が立っていて―― 「ッ!?お…お前こそ何者っすかっ!  まさか…泥棒…っ!?」 片瀬はスッ…と身構えながら男性を睨みつける… すると男性はクスクスと笑いながら両手を軽く上げてみせ―― 「まさか!僕が泥棒だとしたら  どうやってこんな50階もあるタワーマンションの最上階まで侵入できるというんだい?  そもそもコンシェルジュがしっかりとロビーで目を光らせているというのに…」 「ッ確かに……  え……じゃあ誰…?」 葵が不思議そうに男性を見つめると やはり男性は誰かを彷彿とさせるような笑みを浮かべながら 静かにその口を開いた… 「…僕の名前は斎賀 稔(さいが みのる)。  此処に住んでる斎賀 信の父親だよ。」

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