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フェラガモとフェラーリしか思いつかん。

「帰れ。」 「…酷いじゃないか信……  折角訪ねて来た親に対していきなり帰れだなんて…」 信の父、(みのる)はその場でガックリと肩を落とし… わざとらしい大きな溜息と共に深く項垂れてみせるが―― 時折拗ねた子供のようにチラチラと上目遣いで信の様子を伺い… そんな父親の様子に信は腰に手を当て 盛大に「ハァ~~~……」と呆れ()じりの溜息をつくと―― 心底ウンザリとした様子でその口を開いた… 「あ~…ハイハイ…  ――で?今日は一体何の用があって(うち)に来たってんだよ親父…  つか来るなら来るで先に連絡くらい寄越せと何時も言って――」 「あ。斎賀さん……俺――今日はもうそろそろ…」 「!お…おう……今日もご苦労だったな片瀬…  ところでなんか変わった事は――って…親父か…」 「ハハ…そうっすね。…それじゃあ俺――これで失礼します。」 「おう。気をつけてな。」 そう言って片瀬は信と葵… そして椅子に座ったままにこやかに片瀬に向って手を振ってみせる稔に頭を下げると リビングを後にし… それを見届けた後、信はもう一度小さく息を吐き… ネクタイを緩めながら葵達が向かい合うリビングテーブルに近づくと その上に先程買ったケーキの入ったスイーツボックスを静かに置く すると稔が興味津々に シンプルながらも高級感あふれるそのスイーツボックスを見つめ… 「お!なんだい?コレは……ひょっとしてケーキかい?  よし!早速みんなで――」 「…お前の為に買って来たんじゃねーよ。  葵…」 「…ん?」 稔がスイーツボックスに手を伸ばしているのが見え… 信がすかさず稔の手が届く前にそのスイーツボックスを再びサッと持ち上げ ソファーに座る葵に向って信がチョイチョイと小さく手招きをし―― 葵が何事かと小首を傾げながらソファーから立ち上がり… 少し不安げな表情(かお)を見せながら信の傍まで近寄ると 恐る恐るその口を開いた… 「…なに?信…」 「ッ葵……その~…な…?  昨日は――悪かった…」 「…え…?なんの話し?」 やっぱりというか案の定というか… 葵はなんで信が自分に謝っているのかが分からず 益々訝し気に信の事を見つめ… そんな葵に信は言い辛そうに手に持ったスイーツボックスに視線を落とすと… 躊躇いがちに言葉を続けた 「ホラ…昨日の俺は――というか今朝もなんだが…  お前に素っ気ない態度をとってしまっていただろ…?  アレにはその……非常に大人げない理由があってだな…    その事でお前に――謝っておこうと思って…」 ―――お前は悪くないのに……    醜い嫉妬でお前を不安にさせてしまって悪かった…と… 俯きがちにスイーツボックスを見つめていた信が意を決して面を上げ―― 次の言葉を紡ごうと息を呑みこんだその時… 葵が慌てた様子でガシッ!と信の両肩を掴んできて―― 「ッいいよ信……謝んないで…?  信は何も悪くないから…っ、」 「ッ葵……しかし俺は――、」 「ううん。むしろ謝るのは俺の方だよ…  だって信――  フェラが嫌いだったんでしょ…?」   「…………………は?」 葵の口から出て来た予想外の答えに… 信は一瞬何を言われたのかが分からず 呆けた顔をしながら葵の顔を見つめるが―― 次の瞬間ハッ!となった信は慌てて葵に聞き返した 「ちょっ…ちょっと待て葵…、  俺がフェラ嫌いだなんて…なんでそんな…」 「え…?違うの??  俺てっきり信はフェラが嫌いで――  だから昨日は怒ってお風呂から出て行っちゃったんだとばかり…  え……じゃあなんで怒ったの??」 「ッ……それは――」 葵がキョトンとした様子で信を見つめ―― 信がバツが悪そうに再び俯きかけたその時… 「――――フェラ…?」 「あ…」 ―――そうだ親父…! 二人の会話の間に出て来たいかがわしい単語を耳聡(みみざと)く拾い取った稔は 二人の方を訝し気に見つめながらその単語を呟き… それに気づいた信が慌てて別の話題で取り繕う 「なっ……何言ってんだよ葵~…  俺がフェラーリの事嫌いなワケがないだろ~?!」 「………へ?――いきなりなに言って…」 「あの洗練された美しいフォルム!  やっぱ次車を買うとしたらフェラーリ812スーパーファストだよなぁ~!  ……なっ?親父もそー思うだろ?」 「―――あ。」 信が焦りながら父親の方を見てその話題を振った瞬間 流石の葵も失念していた稔の存在を思い出し…ハッとして口を噤むと―― 慌てて信の話題に便乗し、話を合わせる事に… 「そっ…そーだったんだぁ~…  俺はてっきり信はふぇらーりの事が嫌いなんだとばかり…」 「ハハハ…そんなワケないだろ…?  フェラーリは男のロマンなんだから…」 「そ……そーなんだ……へぇ~…」 車に詳しくない葵は引きつった笑みを浮かべ―― 二人の間には妙に気まずい空気が流れるなか… 信は葵に少し顔を近づけると、葵にしか聞こえない小さな声で呟いた… 「俺は――フェラの事で怒ったんじゃない。」 「え…」 「嫉妬したんだ…  お前がもう既に……他の男と経験がある事に…」 「ッ…!  そんな事言ったら俺だって――」 信の呟きに… 葵が少しムッとして信に食って掛かろうとしたその時 稔が突然「ああ!」という何かに納得したかのような声を上げ―― 「な~んだ……車の事だったのかぁ~!  フェラなんて単語が聞こえて来たもんだったから僕はつい  チ〇コ(くわ)える方のフェラを想像しちゃったよ~…  アハハハハ~!」 「ッ!?!?」 「オイッッ!!!クソ親父っ!!!」 「アハハ!まあまあ…そー怒りなさんなって…  ところで信…」 「………なんだよ。」 今まで穏やかだった稔の周りの空気が一変… 稔は変わらずににこやかな笑みを湛えてはいるが―― その瞳だけは何処か相手の手の内を見透かすようにスッ…と細められると… 稔は葵と信を交互に見やりながら静かに口を開いた… 「お前に――聞きたい事が二つほどあるんだが…  まずはそこの――葵君……だったっけ…?  お前とその子は一体……どーゆー関係なんだい…?」

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