135 / 137

…と、呼べる関係になりたいと思っている。

「…どういった……関係…?」 稔から唐突に切り出された質問に―― 信の思考は一旦此処ではない何処か別の場所を彷徨い始める… ―――そー言えば………考えた事もなかったな…    俺と葵の関係…… 駅で出会ってから今日までの間… お互いに好きだという気持ちは自覚はしていたものの―― その関係に名前を付ける事もなく ただ漠然と一緒に居る事が当たり前だと考えていただけに… 改めて気づかされた自分たちの曖昧関係に信は愕然とし… まるで自分が深い水の底に沈んでいくような感覚に襲われ―― 信は息をするのも忘れてその場に佇む… そんな中… 信の隣に立っていた葵が恐る恐る信の手に触れ… 不安げに信を見つめながら躊躇いがちにその口を開いた 「のぼる……」 「ッ……!」 ハッ!として信が葵の方に視線を向けると そこには不安で揺れる葵の瞳が真っ直ぐに自分の事を見つめており… ―――葵…    また俺は――お前の事を…不安にさせているのか…? そこで信はようやく忘れていた息を吸い込み―― 葵に向けて安心させるかのような微笑みを見せると… 向き合う決心と共にゆっくりとその息を吐き出した… 「…で?どうなんだい?信…  その子とは一体どんな――」 ―――今更悩む必要なんて――    何処にもないだろ…? 信はスッ…とその視線を稔に向けると―― 躊躇う事なく言葉を発した 「―――恋人。」 「………ッ!?」 葵は思わず目を見開いて信の事を見つめ… 信は真っ直ぐに稔の方を見つめながら、躊躇いがちに自分の手に触れていた葵の手を 上から包み込むようにギュッと握りしめると 更に言葉を続けた 「…と、呼べる関係になりたいとは思っている。  俺は。」 「ッ…信…!」 「―――本気で言ってるのか?」 「ああ…」 真っ直ぐに自分の事を見つめながらハッキリとそう告げる信に―― 稔はフッ…と柔らかい笑みを見せ… 「ふ~ん……ま、いいんじゃない?  僕はそーいった事に(こだわ)りが無いからね。好きにしたらいい…  ただ―― “呼べる関係になりたいと思ってる”っていう事はまだ――?」 「ッ!恋人で…ん”ぐっ?!ン”ーン”ッ、、ン”ヴッ!!」 葵が慌てて『恋人です!』と言おうとした瞬間 信が笑顔で葵の口を片手で塞ぎ… 更に勿体をつけるように言葉を続ける 「ん~~~……まあ…そーかな…  まだ恋人と言える関係ではねーかなぁ~…  けど――」 「…?」 信がスッ…と葵の方を見ると… その表情に意味ありげな笑みを浮かべ―― 「…親父が改めて自覚させてくれたお陰で――  俺はもう迷わないし…  これからは全力でコイツと恋人と呼べるような関係を築いていこうと思っている。  だから――」 信が葵の口を塞いでいた手を退け… それと代わるようにして自分の顔をグッと葵の顔に近づけると―― 呆然とした様子で自分の事を見つめる葵の瞳をしっかりと見つめ返しながら 信が小さな声で囁いた… 「覚悟しろよ?葵…」 「ッ…のぼ…、ン…」 葵がその瞳に怖気づき… 何か言おうと唇を動かそうとしたその時… その唇を塞ぐように信がそっと自分の唇を重ね―― 「………」 「………」 「………」 長い沈黙がリビングを包み込み… 稔が唖然とした様子で二人の口づけを見守るなか… チュッ…というリップ音と共に二人の唇はようやく離れ―― 「はっ…、ぁ…、ッ…のぼる…」 「………と、いうワケだから――  納得したか?親父。」 「へぁッ?!―――あ……ああ!納得した。  さっきも言った通り僕はそういう事に拘りが無いからね。  お前たちが本気なら――僕は応援するよ。」 「そうか……だとさ、葵。  良かったな。これで心置きなくイチャつけるぞ。」 「っはぇ…?、ぁ…うん………嬉しい…」 そう言うと葵は耳まで真っ赤にし 信の手をギュッと握りしめながら俯き… 信がそんな葵の頭に微笑みながら軽くキスを落とすと―― 改めて稔の方を見ながら口を開いた 「ところで――  さっき話が二つあるって言ってたけど…  残りのあと一つは何だ…?」 「ああうん……実はさ――  お前の母さんが…  恵さんがフランスから日本に帰国してるらしいんだけど…    その事でお前に何か…連絡でもあったんじゃないかと思って  今日は訪ねてみたんだが――何か聞いてないか…?」 「え………お(ふくろ)が…?」 それを聞いた瞬間… 信の血の気が一気にサァァー…っと引いた…

ともだちにシェアしよう!