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第13話

「いたっ! なんだ、サナ。急に不機嫌な顔をして」 「ハルカもどうしたんだ? 頬っぺたを膨らまして」 「眠そうだ……なんて言ったら、お昼寝したくないリンリンは、意地になって寝なくなるだろう? こんなの、子育ての『いろは』の『い』だ!」  小さな声で耳打ちするようにサナが怒ると、ガーシュインはシュン……とした顔で額を掻いた。 「それは申し訳なかった。それじゃあリンリンの寝かしつけは俺がしよう」 「当然」  子どもを寝かしつけることがどれほど大変なのか? その身を以て償ってもらおう。  サナの溜飲も下がったところで、本日の前菜が運ばれてきた。  それは鳩のレバーを使ったアップルパイで、レバーの塩気と、アップルパイの甘みが絶妙に絡み合う、最高に美味しい一品だった。  次に運ばれてきた魚のカルパッチョも新鮮で、じつに美味しい。 (もしかしたら、この魚はコック長が吊り上げたのか?)  普段はふっくらした体形に、柔和な笑顔を浮かべ、陽気に歌を歌っているコック長だが、釣り竿を握らせたら顔つきが急に変わり、新鮮な魚を次々と釣りあげていく。  その様子がじつに軽快で、サナはよくリンリンと見に行っていた。  リンリンもこの様子に、大興奮ではしゃいでいた。  サナやハルカが読んだ通り、リンリンがこっくりこっくりと船を漕ぎだした。

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