23 / 102

第23話

 この頃、セルディンティーナ王国の一部の臣下の間で、国王一家が乗った船が拿捕されたと大騒ぎになっていた。  リンリンをこの上なく可愛がっていた祖母のマリアンヌは、心労から倒れてしまったほどだ。  しかし、このことは一切国民に漏らすなと、侍女や従者に厳しい箝口令が敷かれた。  広い国土を守るために用意された兵士は多いものの、大海を警備することに重きを置いてこなかったセルディンティーナ王国軍は、海軍の非力さと守る者の少なさを、今更になって悔やんでいた。  なぜならば、今まで海上でこのような大きな事件が起きたこともなく、漁師たちで作った漁業協会も運営が好調で、揉め事一つ起きたことがなかったからだ。 「何か良い案はないのか!?」  防音性の高い会議室で語気を強めたのは、セルディンティーナ王国騎士団長のロイ・バーンズだった。  茶色い鬣をぐしゃぐしゃとかき混ぜた彼に、陸軍隊長のデニス・コナードが厳しい顔で口を開く。 「落ち着け、ロイ。海軍の密偵船からは、今のところ国王御一家はお元気そうだという情報が入っている」 「しかし、いつ何が起きてもおかしくない状況だ。相手はあの『地獄の海賊船』と言われるサーディアン一団なんだぞ? あいつらはいくつもの船を沈めてきた。国王御一家に何か起きてもおかしくない!」  どかっと自席に着いたロイはなんとも苦々しい顔で鬣をかき上げた。

ともだちにシェアしよう!