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第32話

「……もし逃げないって約束すんなら、一度だけ自分たちの船に戻ってもいいぞ」 「えっ?」  声を上げたハルカの向かいで、サナのエメラルドグリーンの瞳が丸くなった。 「じゃないと、いつガーシュインの爪で殺されるかわかんねぇからな。できれば研いでほしい」 「本気で言ってるのか? 俺たちは捕虜なんだぞ? お前はどこまで甘いんだ?」  もしサナが海賊船の団長ならば、捕虜や金品や食料を盗んだあと、その船を壊して確実に沈めるか、良い船なら乗っ取っている。  確かにこの船も貴族仕様の良いものなので、何かのタイミングで乗っ取ったのだろうが、サーディアンは白木の船から食料は盗んだものの、金品には手を着けず、白木の船を沈めることもなく連れ回している。 「お前の本当の目的はなんだ? 陸が恋しくなって国土をよこせと言っているが、それが『本当に求めている』ことなのか?」 「そうだ。俺は『国王』になりたい。だから『国』が必要なんだよ」  ニヤリと笑ったサーディアンの瞳を、サナは真っ直ぐ見つめた。  しかし、彼が言っていることが本心なのか?  そうではないのか?  サナには見抜けなかった。  彼だって、これだけ大きな船に乗り、数百以上の船員を纏める長だ。 『地獄の海賊王』と呼ばれるほど冷酷に、船を沈めてきた男なのだ。  そうそう簡単に本心は見せないだろう。  しばらくサナと見つめ合ったあと、サーディアンは言った。

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