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第39話

そんな母親の姿を、一度も見たことがなかったニーナは、正直驚いた。 彼女の中に、こんなにも強い意志と、他者を思う気持ちがあったのか……と。 「お母様。この花は、今朝カルムが薔薇園から摘んできてくれたのよ。まだ蕾の花もあるから、長く楽しめると思うわ」 「そう……カルムに『ありがとう』と伝えておいて……」 「わかったわ」  娘から見ても傲慢で我が儘な人だったのに、孫のリンリンが城にやって来てからは、ずいぶん丸い性格になったと思う。 しかも、元王妃である自分より、身分が低いカルムに感謝の言葉を述べるなんて、サナが命を賭す覚悟で彼女を守ってくれたおかげか? それ以前は決してなかった行動だ。 (お母様はリンリンとサナのおかげで、他者を思い、感謝する気持ちを手に入れたのね)  部屋を出て、広くて明るい廊下を歩きながら、ニーナは思った。 彼女は今、カルムの祖国であり、かつてシングルマザーだったサナとリンリンが住んでいたフィーゴ王国で考古学を学んでいる。 なぜならカルムの父の専門が、この大陸のセルデンティーナ王国辺りからからフィーゴ王国辺りにかけた、考古学のスペシャリストだからだ。 それ以外にも哲学もほんの少し齧っている。

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