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第52話
強引に渡された何枚もの板の上を走って、シャークノーズ団がサーディアンの船に乗り込んでくる。
中には待ちきれないとばかりに、船の間を飛び越えて来る者もあった。
剣がぶつかり合う音が聞こえ始める。
大砲が放たれる火薬の匂いが鼻を突いた。
力の順に隊列が組まれ、サナもガーシュインもサーディアンも一番後方で身構えた。
潮風に血の香りが混ざり出す。
負傷し、力なく倒れていく仲間の姿が見えた。
サナはこの光景に、奥歯をぎりっと噛み締めた。
自分たちは捕虜だが、サーディアンの子分が倒され、こんなにも怒りを覚えるほど仲間意識が強くなっているとは、思ってもいなかったからだ。
同じテーブルに着き、独り言のように身の上話を聞かせてくれる者もいた。
息子の遊び相手になってくれた、若い団員もいる。
この船は世界で一番居心地がいい! と、誇らしげに語っていた者も――。
血にまみれ、倒れゆく姿を目にしながら、サナは呟いていていた。
「……この船で死ねれば、本望だとでもいうのか?」
「サナ?」
戦場での感情移入は命取りになる。
冷静な判断ができなくなるからだ。
しかし今、サナは完全にサーディアン一団の『仲間』としてここに立っていた。
セルデンティーナ王国の王妃でもなく、捕虜でもなく、ひとりの団員として。
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