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第53話
その時、目の前に大きな斧が振り下ろされ、サナは大きく飛び退った。
一際身体の大きな獣人が、隊列の中を切り込んできたのだ。
獣人は、最後列でも一番身体が小さいサナに狙いを定めたらしく、しつこく斧を振り下ろしてくる。
(面倒臭い奴だ……)
そう思い、いい加減止めを刺そうと剣に手を掛けた時だった。
獣人は大きな咆哮とともに血飛沫を上げ、どぉっとサナの手前に倒れ込んだ。
すると、忌々しげな顔をした夫の姿が見える。
「ガーシュイン……」
「しつこいハエを退治するのは得意なんだ」
獣人をハエに例えたガーシュインは、剣に着いた相手の血を振り払うと口角を上げた。
――が、見つめ合えたのは一瞬で、獣人が倒れたのを皮切りに、シャークノーズ団が突撃してきた。
慣れた剣を鞘から抜くと、サナは躊躇うことなく獣人もヒトも切っていく。
ここは戦場だ。
峰打ちなどという甘いことはしない。
相手の急所を確実に刺し、体力の消耗も最小限に留めて攻撃していく。
どこかで銃を発砲する音も聞こえ出した。
流れ弾に当たらぬよう、神経を研ぎ澄ます。
その集中力は、再びサナに静寂をもたらした。
頭で考えて動くのではなく、筋肉の繊維一つ一つが本能と直結し、感性のままに動き出した。
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