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第56話

「ありがとう、ハルカ。敵は直に白旗を上げる。リョウジ、すまないが甲板に行ってくれないか? 負傷者が大勢いる」 「わかった」  この言葉に、リョウジは「ハルカを頼みます」と困ったように笑うと、手伝いの侍女や従者を連れ、甲板へと走って行った。  サナの読み通り、シャークノーズ一団は白旗を上げ、大砲で壊されたエンジンを抱えて逃げて行った。  それを柵越しに眺めながら、サナは横に立っていたサーディアンに問う。 「なぜ、船を沈めなかったんだ?」 「ん?」  とぼけた風に柵に寄り掛かったサーディアンに、サナは「またかとぼける気か?」と思いながら、もう一度問うた。 「だから、なぜ敵の船を沈めなかった? あのまま生かしておいたら、またいつか襲撃しに来るぞ?」 「皆殺しにした上、船まで沈めるのが海賊の常套手段だと?」 「そうだ。それなのに捕虜も取らず、そのまま逃がすなんて……お前は甘すぎる」  向こうから攻撃してきたのに、シャークノーズ一団は戦力が回復したら、またサーディアン一団を襲うだろう。  仲間を殺され、船を壊されたという、一方的な恨みとともに。 「別に甘くはないさ。食料と水と金品はすべていただいたからな。当分の間、あいつらは困窮するだろう。それだけで大打撃だ。俺たちの船を襲ったことを後悔しているだろうよ」

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