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第60話
(ガーシュイン……っ!)
彼と別れた時のことを思い出した途端に、急にガーシュインが恋しくて恋しくて仕方なくなって、サナは甲板の床をブーツで蹴ると駆け出した。
「サナ?」
背後から不思議がるサーディアンの声が聞こえたが、サナは振り向くこともなくすれ違ったハルカにリンリンを任せると、愛しい獣人のもとへと駆けて行く。
食堂室、図書室、娯楽室、寝室……。
どこを探しても愛しい獣人の姿は見当たらない。
(ガーシュイン、どこにいる!?)
「ガーシュイン! ガーシュイン!」
サナは、彼が海にでも落ちたのではないかと不安になった。
(どうしてこんな時にいてくれないんだ?)
まるで子どもが、見失った親を探すような心細さで、サナはガーシュインを探して船中を走り回った。
すると海賊船には不釣り合いな、ダンスホールの方からピアノの音がして、サナはそちらを振り返った。
「もしかして……?」
ピアノの音色に呼ばれている気がして、サナはダンスホールへ駆け出した。
ガーシュインがピアノを弾くかなんて知らない。
彼の趣味は静かな場所での読書と鉱物集め、そしてリンリンと楽しむ釣りぐらいだ。
しかしこの音色は、ガーシュインの心の叫びと悲しさを同時に表しているように聞こえて、いてもたってもいられなくなった。
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