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第62話

 むしろ、何を考えているのかよくわからない……と言われることの方が多い。  そんなサナを、冷淡さと整った容姿から、『ガラスの薔薇』と呼ぶ貴族が、社交界にはいるほどだ。  それでもガーシュインは鋭い洞察力で、サナをよく観察していた。  だから『冷たい薔薇』の心の内を、簡単に暴いてしまう術を持っているのだ。 愛と鷹揚さをもって――。 「……お前がピアノを弾くなんて、俺、知らなかった」 「話したことなかったか?」  クスクス笑いながらガーシュインが問うと、サナは拗ねた子どものように「ない!」と声を張り上げた。 「どうして今まで言わなかった!?」  なおも拗ねた様子のサナに、ガーシュインは困ったように笑顔を作る。 「きっと話す機会を失っていたんだろう。俺も一応は国王だ。今のリンリンのように、帝王学から絵画まで一通りのことは学んできた。その中にピアノやヴァイオリンも入ってた……という程度だ」 「それにしては上手かった。とてもいい曲だと思った」 「そうか。それならもう一度弾いてやろう。サナが望むのなら、いつだって何度だって弾いてやるぞ」 「それは、俺を……てからでいい」 「ん?」  鬣越しに聞こえていた声が急に小さくなって、ガーシュインは甘く聞き返した。 「だから、もう一度曲を弾くのは、俺を抱いてからでいい」 「サナ……」 ガーシュインは、やはりな……と心の中で思う。

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