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第79話
すると彼は、実に気持ちよさそうに爪を研ぎだしたので、サナの心中は複雑だった。
獣人として生まれた息子には、やはり獣人の親が必要なのだ。
そんな時、働いていた店で酔いつぶれた青年を助けた。
名はカルムといい、父親は国立科学博物館の館長で、貴族にして大学の教授であった。
そんなカルムになぜか気に入られてしまったサナは、獣人である彼がリンリンと遊んでくれる中で、毛繕いの仕方や甘嚙みの作法などを教えてくれ、本当に助かったと思っている。
「――サナ、僕と結婚してほしい」
カルムにそう言われた時、正直心がぐらついた。
ガーシュインのことは好きだった。別れて4年経ってもまだまだ彼への未練はたくさんあった。
しかし、ガーシュインと結婚できないのならば、リンリンのために……獣人である息子を
『立派な獣人』として育てるために、獣人であるカルムが必要なのではないか? と思ったのだ。
けれども、やはりガーシュインへの想いを捨てきれず、サナはカルムからのプロポーズを断り続けた。
今になっては、それでよかったと思っている。
サナを追って、セルデンティーナ王国までやって来たカルムは、ガーシュインの義妹であるニーナと出会い、恋に落ち、今は幸せに暮らしているという。
結婚も時間の問題だろう。とても素敵なことだ。
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