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第85話

 落ち着いた黄色のドレスの裾を掴むと、ニーナはゆっくりと部屋を出た。このことを母親であるマリアンヌに伝えるためだ。 「ニーナ!」  そこで突然声をかけられて、ニーナは進行方向とは逆の廊下を振り返った。 「カルム! どうしたの? そんなに息せき切って」  走って来たらしい恋人に驚いて彼の肩に触れると、カルムは大きく深呼吸をしてからニーナの瞳を見つめた。 「今、伝書鷹が戻って来たって聞いたから。国王様たちはどうなっているのかと思って、鍛錬場から駆けてきたんだ」 「そうだったの。大丈夫よ、お兄様たちはとても元気みたい。リンリンも。ただ白木の船は回収できたけれど、お兄様たちを救出するまでには至らなかったみたい」 「そうなのか……」  眉を下げ、カルムは実に残念そうな顔をした。  カルムはかつて、サナを追いかけてセルディンティーナ王国の騎士団に入隊したほど、彼を愛していた。  そのことが今でもひっかからない……と言えば嘘になるが、ニーナは今、自分を愛してくれる彼を信じている。  そしてまた彼も、ニーナの愛に応えるように全身全霊を持って、自分のことを愛してくれていると思う。  優しい彼は、ニーナの実母であるマリアンヌにも良くしてくれて、今では彼女のお気に入りの人物のひとりだ。

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