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第91話

 なぜなら、厳しい箝口令が王城内で敷かれているからだ。 「……平和、だな」  活き活きとした国民の姿に、カルムは皮肉も込めて呟いた。  なんとしてでもこの『船旅』で、ガーシュインたちを助け出さなければ――。  愛らしい彫刻が随所に彫られた、ニーナの立派な豪華船には不釣り合いな、海軍の厳つい護衛船が10隻も用意され、その姿は圧巻だった。  港で働く者たちも、この様子に「なんだなんだ?」と集まってくるが、兵士たちがそれを必死に散らしていた。 「――兵隊さん。こんなに海軍の船が集まって、一体何をするんですかい?」  港で働く男性のひとりが兵士に訊ねると、彼は決められた通りの答えを口にした。 「国王様の妹様であらせられるニーナ様が、長い船旅に出ることになったんだ。そのための護衛船だ」 「へぇ、そうなんですかい」  この説明で納得したのか。質問をした男性は、また仕事に戻っていった。  荷物の詰め込みも終わり、ニーナの可愛らしい豪華船はゆっくりと海を進み出した。  可愛いだけでなく大きさもあるので、ニーナの船はあまり揺れを感じなかった。  その前後左右を厳つい護衛船(正確には戦闘船)が囲み、物々しい雰囲気で船は港から離れていく。  今回は、できるだけ戦いたくないとニーナは言っていた。  海賊団と話し合い、その要求を聞き出し、ガーシュイン一家とハルカやリョウジ、そして侍女や従者たちを助け出すのが目的だと、明確に彼女は口にしていた。

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