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第93話
「『ねぇ、あひるさん。あなたはどうしてガーガー鳴くの?』『それはガーガー鳴く、木の実を食べてしまったからさ』」
「なんと! ガーガー鳴く木の実がこの世にあるんですのん!?」
毎回何かしらに強く反応するリンリンは、このアヒルの絵本に出てくる木の実が気になったらしい。
「そうだな。もしかしたらこの世には、そういう木の実があるのかもしれない」
「もし、それをリンリンが間違えて食べてしまったら、リンリンは一生ガーガー言い続けるんですのん?」
「かもしれないな」
からかうように口角を上げて応えると、綺麗なオッドアイに涙がじわりと滲んだ。
「いやですのーん!! リンリン、その木の実を食べたくないですのーん!!」
今にも本気で泣き出しそうなリンリンに、サナは慌てて絵本を閉じた。
「安心しろ。これは創作物の中に出てくる木の実だ。実際には存在しない」
「ほ……本当ですのん?」
心配げに眉を下げ、潤んだ瞳でこちらを見上げる息子に、サナは微笑んだ。
「本当だ。俺が保証する」
そう言って可愛い息子を抱き上げて膝の上に乗せると、高い体温の身体がぽかぽかと温かくて、少し甘い香りが彼からした。
「サナ~、大好きですのん」
短い腕を回し、きゅっと抱き着いてきた息子を、サナも抱き締めた。
「あぁ、俺もリンリンが大好きだ」
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