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男同士の行為がどうやってはじまりどこへ帰結するのか、無知な俺はよく知らない。しかし、少なくともお互いに気持ちよくなるものだと思っていたので、俺に触ったあと自分自身を取り出すこともないままティッシュに手を伸ばし、後片付けをはじめた高岡さんに違和感を覚えて声をかけた。 「た、高岡さんはいいんですか……」 その言葉は高岡さんにとって予想外のものだったのだろう。何か言葉を飲み込むように、ごく、と喉をならした高岡さんは、視線を外しながら独り言のようにつぶやく。 「……まー、本音言ったらおしりも触りたいけどね。いきなりは厳しいだろうし、ローションもないからガマンだな」 「あ、そういや前にローションもらって」 「は?」 「誕生日にもらったんすよ、友達に。いきなり学校内でゴムとかローションとか渡してくるからマジ勘弁しろよっていう―……」 とりあえずベッドサイドにしまいこんだまま、使うことなく月日をまたいでいたローションを取り出す。高岡さんはいかにもなピンクデザインのボトルを手にとって、しげしげと眺める。 「……誕生日にもらうようなモンじゃねーだろ」 「悪ふざけですよ。俺も別の友達の誕生日にオナホ渡しました」 「ほんとさあ……伊勢ちゃんは悪いお友達がいっぱいだよね」 「いや、ふざけたことはするけど、悪い奴らじゃないですよ?」 「そうじゃなくて。その中にマジで下心ある奴いてもおかしくないだろって話」 「そんな人いないですよ! みんなネタでやってるんですから」 「……ここにそんな人いるんだけどな、ネタじゃねぇんだけどな。ところで伊勢ちゃん」 「はい?」 「わざわざ出してくれたってことはそういうことだよね?」 かぽん、と軽い音が響いて、ローションの蓋が外れる。ローションもないから……という言葉を聞いてふざけたエピソード思い出し、思わず取り出してしまった。そこに行為を促す意図はなかった――と、そんなバカな説明を今頃したってもう遅い。 「んあ……っ!」 「すごいね、もっと時間かかると思ってたけどもう結構やわらかくなってきてる。もっと奥まで入れてみるか」 「うぁ……ね、なんかそれっ、嫌なんですけど、なんかきもちわるいんですけど……っ」 「大丈夫すぐ慣れるよ。別のこと考えて気ぃそらしてて」 「いやいや無理でしょ何言ってんの……っ!」 「伊勢ちゃんももらったことある? オナホ」 「え? あ、ありますけど……」 「それすぐ使った?」 「は、はあ……まあ……」 「どんなこと考えながら使ったんですかー?」 「なにこのインタビューみたいな……あっ、い、今別の指入れたでしょ!? 痛い!」 「気のせい大丈夫だから力抜いて。力むともっと痛くなるから」 「だ……っ、そ、そんな無理……っむりむり……っ」 「声いっぱい出すと楽になるから出して」 「そ、それも無理ぃ……っ」 「えっちな声聞きたいんだけどな。まあいいや。そんで普段なにオカズにしてんの?」 「へぇ……っ? ふ、ふつーにAV……」 「ほー。どんなん見るの? やっぱ女王様にいじめられる系とか?」 「ちが……っ、やっぱって何!?」 「なんか伊勢ちゃんMっぽいから」 「何を勝手に決め付けて……っ!」 「つーかほんとに思ったよりスムーズだなー。ココいじったことあるの?」 「ない! あるわけないでしょ!」 「じゃあ素質がある。すげーな」 「なにが……っ!」 「もう入れてもいいかなぁ」 「だっ、ダメです! 絶対無理裂ける!」 「じゃあこのまま生殺し状態続ける? 俺これでも結構いっぱいいっぱいなんだけどな、まだおあずけか。ひでーな伊勢ちゃん」 「なんで俺が悪いみたいになるんですかあ……も……高岡さんのそういうとこ嫌い!」 「うそじゃん。伊勢ちゃん俺のこと好きでしょ?」 「えっ……!」 「……」 「……」 「……ほんとかわいい」 ずるりと指が抜ける感覚に、むき出しの素肌が震えて情けない声が出た。指を動かしながら絶えずくだらない話を続けていた高岡さんは「結構いっぱいいっぱい」にはまるで思えなかったが、濡れてふやけた指を拭いた後Tシャツをがばりと脱いだその表情には、確かに余裕など見られなかった。

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