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その瞬間は確かに痛かったけれど思っていたほどではなく、というのはおそらく、俺が恐れていたのは痛みではなく別の何かだったのだ。この行為でケツが痛くて痛くてたまらなくなってしまう、そういう怖さでなく、この行為がもたらすあらゆる変化と発見に怯えていた。例えば俺が高岡さんに抱いていた「知りたい」「分かりたい」「でもできなくてもどかしい」が、好意だと気づいてしまうこととか。 「い……っ、あ!」 「……痛い?」 奥歯を噛みながら首を横に振ったら、高岡さんの長い指が困ったように額をすべった。じんわり浮かんだ汗が固い指の腹を濡らして、いよいよ困ってしまったらしい高岡さんは、意を決したように腰を進めてきた。 「ひ……っ!」 「あ……、伊勢ちゃん……っ」 「いっ、ん、ん……っ!」 内臓をゆるく抉られているような感覚に声が漏れる。慌てて高岡さんの腕をつかんだのはやっぱり怖かったからだ。高岡さんは、なかなか素直にならない俺のすがるような手に、きっとものすごく驚いたのだと思う。次の言葉は反射的に漏れた人情の弱さをはらんでいた。 「ごめんな、痛いよな……やめる?」 怖いのは、俺がこの期に及んでいまもなお、健全な場所に留まろうとしているせいだ。高岡さんの弱さをはじめて知って震えた俺が今、守りたいのはこれまでと同じ生活だろうか。 「……やめない!」 「こんなときまで強がるのかお前は……プライド高すぎだろ」 「強がってるんじゃない!」 「いや、ごめん、いいんだよ。俺が先急ぎ過ぎた。とりあえず今日は」 「やめない! お、お願いしますやめないでください!」 今ここでやめたら高岡さんはまた狭い部屋に帰るだけだ。そうさせたくないと思う気持ちが、同情なのか友情なのか、父性か母性か愛情なのか、緩くなった頭では考えられないから高岡さんの腰に足を回して受け入れる意志を表明する。 「んあ……っ!」 とっくに熱く、硬くなっていた先端が一層奥の方をぐんと貫いた。これまでとは比べものにならない存在感に、笑ったりふざけたり黙り込んだりして、色んなものを隠し通す高岡さんの「本当の部分」に触れた実感で心臓がばこんと湧いた。水音と皮膚のぶつかる音に鼓膜を揺さぶられてたまらなくなった。 「あ、伊勢ちゃ……っ!」 「ん、んう、うあっ!」 「あー、すき、すきだ、すきです、っは、伊勢ちゃん……」 腹の中が苦しい、というはじめての感覚に戸惑う俺はえろくもかわいくもない喘ぎ声をもらして消化しきれない感覚を吐き出す。高岡さんも同じなのだろうか。どうしようもない感覚を吐き出すように、何度もすきと繰り返して、その度さらに強く奥を嬲る。揺さぶられると平衡感覚を失って、いたい、いたくない、いたい、きもちい、と動物みたいな実感だけが残る。 「あ、た、たかおかさ」 「あ……ごめ、痛い?」 「いや、いきそう、あ、じゃなくて、あの、いきます……っ!」 「ん……なあに」 「いきます、もっ、いく、あっそれ、あ……っ!」 もうすでに、ふにゃふにゃにふやけて差し出した降参に、高岡さんはさらに強い体当たりで応える。指でも性器でも十分にかき回された内側はもう数時間前とは比べものにならない。とっくにぐずぐずになってしまったその中をなおも責め立てながら、高岡さんが俺の性器に触れる。あっという間に頂点にのぼりつめ、精液とともに涙まで出てしまった。ただ放心する俺の後を追うように、高岡さんもさらに強く腰を動かす。 「……っ、すき……」 そして最後の最後までそんなことを言う。二人で息を整えて、汗まみれの身体をシーツに転げたとき、高岡さんも泣いていることに気が付いた。泣きながらすきとか口走ってたのかこの人。高岡さんは今も裸のまま、呆けた表情で俺を心配するように盗み見ている。子どもみたいに。そのとき支配された感情は、少なくともただ仲の良い先輩に抱くものではなかった。

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