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先生の家の子になりました
えっ 明日は任務で授業できない? 普通の任務も並行してやるの? 俺も? マジですか? ブラックすぎるだろ。
「ちなみに、俺のお給料体制とかは、どうなってるんですか? 俺、無一文なんですけど」
「えっ」
聞いててよかったっていうか、先に聞くべきだったな。
桜火先生が相談して動いてくれて、晴れて俺はお給料を貰えることとなった。
家にある程度吸い上げられるけど、全部没収されるよりマシである。
っていうか、今のうちに縁切れませんか? え? 先生の尊厳が生贄に捧げられる?
建前的に俺を稚児として引き取ることになる? 結婚拒否してたから信憑性が増す?
もうそれで良いからなんとかしてください。
ゴーレム作成の技術? それくらいは渡して構わん。というか作り方既に生徒に教えてるでしょ。あと、猪突クラスの使い魔10くらいで十分かな? それと先生の作ったスキルブック。
先生の結婚相手がいなくなる? どうせ相手魔術師でしょ。魔具の価値でぶん殴りましょう。
そもそも、魔具作成より戦いのほうが得意? なるほど。戦闘力底上げのほうが魅力的と。
俺のスキルブックコレクションからいくつか欲しい? 欲しいと。
俺の魔具コレクションからステータスアップアイテムとか武器とか欲しい? 欲しいと。
尊厳とどっちが大事?
「というわけで、炎剣 蓮です! よろしくおねがいします!」
俺は生徒に元気に挨拶をした。ちなみに、諸々あってもうすぐ3月である。
やったね、後一月で小学校6年生相当になるよ! 学校いけないけど! 貯金もあるのだ!
凄い! 10万円!
「やはり淫行教師……」
「違うから!?」
「冗談よ。生徒なら皆、わかってるわよ。だってその子、魔力は少ないけど、本当に魔法陣構築が上手いもの。先生より導くの上手いし。先生の側近候補でしょ?」
そうなんだよね。既に俺も授業に積極参加している。教える方な。
流石にゴーレムについてのみだけど。ささやかな部活動もどきとして人気です。
スキルブックの作り方は生徒にはまだ教えないし、先生二人も俺の前以外で作らないよう魔法契約を結んでいる。これは教本となるため、責任持てないからだ。失敗したら迷いなく破り捨てますよ。
本当に上手に魔法陣構築が現れたら教えようと思う。
「まあ、そうなんだけどね。将来は炎剣の一族の魔具を作ってもらおうかなって」
「早く他にも候補者見つけてくださいね。俺一人じゃ立ち行きませんし」
っていうか、俺は魔具作成には邁進せんぞ。弟子は取るが。そういう約束である。
「わかってるって」
頭を撫でれば全て解決すると思ってますな? そのとおりですぞ!
実際、結構本気で守ってくれているのがわかるので、俺としては出来得る限り協力してあげたい。
強力な魔具やスキルブックを惜しげもなく与えるのは、自分の身柄を買いとるため、というためだけでは決してない。
「一族の者に物作りが好きなのがそもそも少なくてね」
「炎剣に献上してくれるなら、血筋はどうでもよくない? 駄目なの?」
「駄目なの。授業のことで大分怒られてさあ。一族を優先しろって」
「あれでも?」
俺はグラウンドを指差す。
水輪一族がゴーレム同士を戦わせてめちゃくちゃ盛り上がっている。
向いている一族がそこにいる。
「向いてる向いてないはデカイよね。残り4つのスキルブック作成が辛い……」
26人にスキルブックを配り、後4人がスキルブックを今か今かと待っている。
彼らは四家のメンバーで、魔法の知識があるので希望するスキルブックが難しいのだ。
ここで、ん? と思ったあなたは正しい。一年生増えました。
俺みたいな隠していた子供が学校に送り込まれてきたのだ。ちなみに授業の進度で先生は泣いた。先生の目標は、一年生全員がこの学校の基準をクリアすることだから。
ちなみに、多分一般の小学生レベルの学修レベルだと思う……。魔術関連の勉強も任務もあるからね。そもそも小学校行ってない子いるし、仕方ない。魔術界で最低限困らないレベル。一般社会だとぎりぎり無理かな! 無理かな……。そのレベルなので、その基準はクリアさせようと、それはそれは必死なのだ。桜火先生は。
「あーっ 先生! 諦めないで! お・ね・が・い!」
ぎゅうっと先生に後ろから抱きつく女の子。恥じらい!
「こら! 女の子がそういうことしない。正直挫けそうなんだよね。もっと簡単なのに変えてくんない?」
「あはは。絶対嫌。いくら払ってもいいわ。この体を許してもいいわ。必ず用意して」
こ、こわぁ。声がマジですわ。くじけ始めた先生のもとには、寄付やら貢物やらが続々と集まり始めてる。あと、激励の言葉や怪しげな栄養ドリンクとかも。圧力で先生の任務減ったし。
それは活用させてもらっている。生徒のゴーレム作成の材料とか、テキスト作成の時間とかにね。
本当に、先生は聖人。
でもそろっと、桜火先生折れそう。オーバーワークだしね。
しかも魔術の勉強が毎年と比べて遅れてるとお説教されてるしね。
2年時はもっと生徒が増えるよ! 留年生がまるっと残るよ! (遠い目)
一年生担任になるか二年生担任になるかでもかなり揉めたしね。
結局数が多い二年生の担任になったけど。
「はぁ……。まあ、二年生の時は二年生の時で、ちょっと面白い授業をするから、楽しみにしててよ。魔具の配布は心と体が持たないからやめ」
「そこでお金がもたないにならないところが素敵ですわぁ」
「最近コアが高騰しちゃったから、お財布も痛いには痛いんだよね。ご褒美タイムがなければくじけてたかも」
「ご褒美タイム?」
「いや! なんでもない」
やれやれ、うっかりさんめ。
さて、温泉地での任務。一泊していってもいいということで。
「ご褒美タ―――――――――イム!!」
「わああああ!」
「うおおおお!」
「炎剣先生、俺を買ってくれてありがと―♡ 疾風先生も、そのサポートありがと―♡」
パチパチパチパチ。
二人が拍手してくれる。
「では! 早速! お二人に四次元収納のスキルブック!」
「おおー!」
「おおー!」
「炎剣先生には、炎の究極魔法(単体)のスキルブック!」
「へ? え、わあああああああ!」
「疾風先生には、飛行魔法(単体)のスキルブック!」
「は? おおおおおおおおおお!」
「一時的に魔力が上がるご飯のレシピ!」
「いもりの黒焼きとか出そう」
「ちょっと興味ある」
「なんと一週間三食おやつタイムありの28種!」
「「な、なんだってー!」」
「そして! 食べるとちょっぴり強くなる果物盛り合わせ!」
「え、そんなんあるの?」
「すご……」
「最期に! 炎剣せんせーに炎剣あーんど疾風先生に闇のマントー!」
「「は?」」
「でも、レシピ以外は内緒だぞ! ほらほら、褒めても良いんやで?」
俺が調子に乗ってインチキ大阪弁になるが、二人は呆然とした。
「これ、本物なのか……?」
「多分、本物……しかも新品……!?」
恐る恐る俺を見る。
「蓮、一体……」
「恩返しの鶴のお話知ってる? それでも鶴の機織り覗いてみる?」
ぷるぷる震えながら、二人は首を振った。
「ま、自分を買い取るんだからね。これ以上ないくらい積み上げますよ。だって俺の価値が決まるんですよ?」
「神具の価値……大切にするよ、蓮」
「撫でるのです。もっと撫でるのです」
俺は二人にめちゃくちゃ頭を撫でられて大満足だった!
ステアップの食事を食べてもらって、スキルブックを使ってもらって、アイテムやレシピを片付けた後は2年生の授業の準備をした。
先生道に終わりはないんやで―!
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