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元勇者のお仕事
3人は、尋問されていた。
要点は、勇者とはなにか。勇者から何を貰ったかの二つである。
しかし、ここで大きな問題があった。
3人は意思疎通が出来てなかったのである!
蓮も弟子ってことにすれば良いのか? まるっとげろりんちょしてもいいのか!?
熾烈な駆け引きが、行われようとしていた!!
「素直に吐かねば蓮に鞭打つ」
「蓮様が勇者様だ! 不敬真似したら僕が相手だぞ!」
行われようとしていただけだった!
「貴方達は勇者様に仕えるのだろう? 勇者様かもしれない人に危害を加えるのか?」
疾風の素朴な詰問に、炎剣投手は微妙な沈黙を返した。
確かに神話では勇者様にお仕えすると言われていた。言われていたが、実際に仕える対象が出てくるのは、その、困る。だって仕えていたというのは神話時代の話なのだ。
その沈黙の意味が汲み取れず、疾風が小首をかしげたところ、可憐なテノールの歌声が響き、力が張った。勇者が歌っていた歌である。魔力を乗せたそれは、勇者のそれと違い、明らかな力を持っていた。
「魔歌の復活ですわ――――――――!!」
水輪 輪廻が嬉しそうに歌うように宣言する。ちなみに女言葉だが、輪廻は男である。
そして、潤む瞳で歌い上げる。
「ゴーレムの知識! 魔法の食事のレシピ! 魔歌! スキルブック! 系統図! 戦い方! 強力な魔術! 数々の神具! 教えて下さいまし、他に何をもらいました!?」
「内緒だと勇者様が言われたんだ。僕から言うことはなにもないね」
「馬鹿!」
「ふっふふふ! これ以上のものを頂いたと! ああ! ずるい! 水輪も一族をあげて、勇者様にお仕えさせていただきます!! ああ、勇者様が神様もしくは神の御使いだったなんて! てっきり同じ人間とばかり!」
己を抱きしめて、輪廻は嬉しそうに愉しそうに高らかに言う。
「確かに、甘そうな御仁ではあったな。褒美に糸目はつけぬと言うなら、仕えがいのある御方と言えよう」
尋問に同席していた地鎧 岩男は告げる。
「炎剣に遅れは取ったが、一の臣下の座は我ら風靴が貰い受ける」
風靴 飛鳥が宣戦布告する。
「……そういうわけだ。当主ではないお前の出る幕ではない! 炎剣も取り上げる!」
「ええー!?」
魔術師は欲望が強い傾向にあるのだ。桜火は例外である。
そういうわけで、気絶したままの蓮は尋問室から速やかに増設された貴賓室に移動され、御簾の中に祀られた。
「んん……」
「蓮様……私の勇者様」
目も眩む美女のふよんとしたお胸に包まれ、勇者は半眼で言った。
「そういうのいいんで」
ふむ。起きたら祀られていた&ハニトラを掛けられた。
大体状況はわかった。ばれたのね。本気で隠すつもりでもなかったから良いけど。
とりあえず、大仰な扱いはいらないと徹底したし、これからも桜火様の助手として陰ながらお手伝いする旨を強調した。
そして、四家の生徒達と桜火せんせーと疾風せんせーと食事をしつつ会談をした。
「そろそろ、魔王がリポップするんだ。復活ってこと」
「魔王って伝説の?」
「そう。前回は異世界人の俺らが倒したけど、今回は君達自身で倒すようにと神様からのお達しだ。俺はそのサポートを命じられたんだよね。仕えるどうこうはいいよ。勇者って言っても、勇者何人いたか知ってる? なんか、残った異世界人俺一人みたいだけど、石を投げれば当たるほどありふれてた勇者って存在に絶対服従も馬鹿らしいし。君等はただ魔王を倒すことだけ考えればいい」
「僕が勇者様になれってこと?」
「1人で魔王は倒せないよ。魔術師全体の底上げが必要かな。だからこうして学校に潜入してるんだし。魔術師の人数事態が少ないのは不安材料だけど……まあやるしかないかな」
「勇者様からのご指導、ぜひともお受けしたい」
地鎧が言う。
ここから自重なしでいいかな―。
そこに、突如として半透明の4つの塔と城が現れたと連絡が来た。
「あー。うん。人類オワタ……。急いで人を避難させて。骸骨将軍が適正レベルなのに、四天王なんて倒せないからね―。確か、塔が産まれてからしばらく猶予があるんだっけ? 今回、どれくらい時間貰えるのかな……」
塔を遠目に鑑定すると、5年とのことでした。長っ その間に訓練しないとな。
まずは装備品の作り方とアイテムの作り方だろ?
戦闘方法もそうだけど……。手持ちのスキルブックはあまり頼らないほうがいい。
やはり自前で用意できるようになってもらわないと。
うーん、やることがいっぱい。
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