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第二十九話 想い

 紫苑(しおん)はソファから飛び降りると、飛影(ひかげ)を乗せて横になっている翳狼(かげろう)に駆け寄り、大きな口に手をかけて 「翳狼、口開けて! あーん、て! 早く!」  と驚いて固まっている翳狼を急かした。 「あ、あーん?」 「牙、触るね? ぐらぐらしない? 痛くない? 下も?」  喰われる気なんじゃないかと不安になるくらいに翳狼の口の中に頭を突っ込んで翳狼の咥内を確認した紫苑は、翳狼の首に抱きつくと嬉しそうに大声を張り上げた。 「良かったぁ! 翳狼も大丈夫だ! 牙も欠けてない! あの時すっごい音がしたから心配だったんだぁ! 飛影は怪我しちゃうし、翳狼まで怪我してたら、もう、俺どうしようって。良かった!」  うんうんと頷く紫苑に翳狼はしどろもどろで許しを請うた。  横たわった状態から伏せへと姿勢を変え、伸ばした前脚の間に土下座のように顔を埋めた。 「え? どしたの? 翳狼?」 「私はっ貴方様をお守りすると約束いたしました……なのに、あの男に擦り傷一つ負わせる事ができませんでした」 「翳狼、見て見て。俺、怪我してないよ? 襲われてもいないよ? 翳狼が頭を下げる必要なんてどっこにもないよ」  ほい、と翳狼の頭の上に飛影を乗せて満足そうな紫苑は、バランスを取ろうとあたおたする飛影と紫苑を見つめて呆然とする翳狼にありがとうと告げて大きな耳の下をわしゃわしゃと指で掻き乱して俺の隣に戻って来た。  翳狼は前脚の間にすっぽりと顔を埋めてしまって、ころりと転げた飛影が床の上で身を立て直そうと動く度に爪がフローリングをカリカリと掻く音が響く。 「あらぁ、翳狼感涙に咽ぶって感じやね?」 「どなたか! 私をどうにかして欲しいのだが! 包帯滑るっ……」  羽を広げて床で暴れる飛影を白群(びゃくぐん)は笑いながら抱え上げた。 「さぁ、飛影。どこに行きたい? 長の膝の上か? 紫苑の腕の中か?」 「おぉ! 白群殿。私は……うむ、翳狼の背が忘れられぬ。とても温かくて心地良いのだ。あまりに心地良くてな、つい寝てしまいそうなのだ」 「寝ろ」  短く声をかけると、ぐぬ? と不満の声が上がったが、大きな翳狼の毛に埋もれて、嘴でせっせと寝床を整える飛影と未だに紫苑の優しさに打たれて顔を上げられないくせに尾を左右にふぁさふぁさと動かすのを止められない翳狼の姿は俺達を笑顔にする。 「さ、紫苑も起きたし、私の好きなあのお茶を淹れて? んでもって、紫苑からの話も聞きたいん」 「お前、俺をお茶汲みと思っていないか?」 「何を言うん!? (おさ)の淹れるお茶が世界でいっちばん! いっちばん美味しいん。ね?紫苑?」 「ん。柚葉(ゆずは)のお茶は美味しいよね!」  朱殷(しゅあん)の巧妙な言い回しに紫苑は他意のない笑顔を返し、俺を見上げて 「なんかさ、甘くてあったかいの、飲みたいな」  と小首を傾げ、何が良いかと聞いてくる。 それにココアはどうかと答えて、自分でやると言う紫苑をソファに座らせて、そそくさとココアとついでのレディグレイの準備をする俺に朱殷はニマニマと笑い何やら白群に耳打ちをする。 「……なんだ」 「んーにゃ、らぶらぶやなぁて」 「ふん、湯を沸かし直して来るから、その間紫苑を苛めるなよ?」 「解っとるわ」  任し! と胸を張る朱殷の横で、気の早い白群は既に紫苑の頭をガシガシと撫でて白い歯を見せている。余程無事である事が嬉しく、飛影から聞かされた勇姿が誇らしいようだ。  大事な弟だと言っていたな。  俺は同じ元人間だからという意味だと思っていた。先に鬼神となった白群が兄で、日の浅い紫苑が弟なのだろう、と。  一種の比喩だと思っていたが、どうやら違うらしい……。  血の繋がりなど関係なく、白群は紫苑の無事を、戦果を我が事のように喜んでいるようだ。 「弟、か……」  人間(ヒト)としての想いを持たない俺には理解できない事の一つかも知れないが、何故か悔しいとか紫苑を奪われるのではないかという焦燥は感じなかった。  ただ、微笑ましいと思った。  白群にもとびきり美味い茶を淹れてやろう。 「ところで。なんで紫苑は図書館に行きたいん? 異国の神で名はサタン。紫苑に対して殺意を抱いとる。こんだけ解ればもう良いんじゃないん?」 「んー……腑に落ちないっていうか」  湯を沸かして戻ると朱殷の質問に紫苑が腕を組んで唸っていた。  何が腑に落ちないのかは俺も是非知りたい。 「例えば何が?」 「あ、ココア! ありがとう。例えば? 例えば……アイツすっごい強いのに攻撃して来なかったんだ。柚葉が欲しいなら、俺をさっさと殺すか人質にして柚葉に言う事を聞かせる方が効率が良いし、あんなに怒ってる柚葉の前で俺をバカにし続けるのは逆効果っていうか……俺の事、詳しかったなぁ」 「こっちの情報はある程度流れたとは思う。バカが甘言に唆されてホイホイ喋った可能性・大だ。すまん」 「うん……それは良いんだけど……」  ふぅふぅと紫苑がココアの入ったカップを冷まそうとする度に甘い香りが部屋に広がり、俺達はその甘い香りの中、紫苑の言葉の続きを待った。 「親に捨てられたのは本当の事だし、良いんだけど……。もし俺だったら、やっぱり俺を狙って人質にすると思う。なのにしなかった……柚葉がずっといたから? あれだけの力があって? そもそも、なんで真正面から来たんだろう……俺を誘拐するには正面突破は絶対に不利だよね、柚葉が気付かないワケないもん……それにあの小さな使い魔。絵に描いたような悪魔なんだ」  絵に描いたような、と繰り返した紫苑は、まだ紫苑の考えが理解できていない俺達を見て申し訳なさそうに眉を下げた。 「鬼ってさ。赤鬼と青鬼がいて、虎柄パンツ履いて金棒持ってると思ってたよ。神様だとも思っていなかった。でも実際は違った……」 「そりゃ昔話の鬼やねぇ……それにアレは鬼神やのうて、鬼神に近い妖魔の仕業やし?」 「そうなんだ……俺、知らない事ばっかだ」  ごめんねと力なく紫苑は自嘲気味に笑い、残りのココアを飲み干した。 「知らない事ばっかだから、知りたいんだ。俺が人間だった頃、悪魔っていうのは正直鬼神よりも身近な存在だった。ゲームとかでよく使われる存在だし、悪魔を題材にした映画や小説もたくさんあった。悪魔祓いのドキュメンタリーも見た事があるよ。でも、そういうので主に使われるのはルシファーって名前で、他の名前も聞いたよ。サタンは何人もいる悪魔の総称って解釈の人もいれば、魔王って人もいた」  それにね、と言葉を切った紫苑は唇に指を当てて何かを考えていた。 「違うんだ。俺達の前に現れたあの男は……あの男の容姿、何対もの羽……あれは人間が簡単に想像しうるルシファーだと思う……別名明けの明星、堕天してからは宵の明星だったかなぁ……山吹(やまぶき)が言ってんだよね? 星に願いを、とか……でも確証というか確信がない。俺、無宗教だったし……だから次に会う時までに少しでも知りたいと思うんだ」 「……充分詳しいと思うがな」 「うん、私知らんかったもん」 「俺もだよ! ぼんやりとしたイメージしかないんだ。ゲームとか小説のね。だから図書館に行きたいんだよ」  そう言うと紫苑は頭に手をやって溜め息をついた。 「……はぁ、気付かなかった……いつ解けたの?」  起きる寸前だと言うと紫苑は再び溜め息をついて 「ダメだなぁ……鬼化が思い通りにいかないって不便だね。未だにコツが掴めないや」  とげんなりとした表情で呟いた。 「いや、聞いたぞ! 掴めてきているんじゃないか?」 「そうよ! 私らの力はね、結果傷付けたり殺めたりする事に使う事が多いけどね、ホントは違うんよ? ホントは大切なモノを守る為に使うん。飛影、守ろうとしたんやろ?」 「守ろうと……っていうか、あの時は守れないって思った……イヤな場面が見えて、俺のせいなのに、俺守れないって。悔しくて、悲しくて、腹が立って……気付いたら……」  紫苑の視線が動いた先は、翳狼の背で丸まって眠る飛影だった。  警戒心の強いカラスである飛影がここまで無防備に寝姿を晒すのも珍しい。余程翳狼の背が心地良いか、疲れたのか。両方か。安心しているだろうか。  だとしたら、俺は嬉しい。俺だけでは確実に守れなかった飛影がたまにクルゥと寝言らしき鳴き声を聞かせてくれるのが嬉しい。 「飛影、無事で良かった」  ふっと細められた紫苑の柔らかい眼差し。 「紫苑のおかげだ。俺は大切なモノを喪わずにすんだ。ありがとう」 「ぅ、ん? 守ったのは柚葉だと思うけど……」  やっぱり解っていない紫苑に身を乗り出して守ったのは紫苑だと説明を始めたのは白群。そして白群を朱殷が援護する。  紫苑の見たイヤな場面というのは近い未来の現実で、それを見るのは先見(さきみ)という能力である事や、その先見が俺よりも早かったから飛影が助かったのだという事を紫苑に解りやすく説明してくれている。  二人の言葉は自分に自信を持たせる為に大げさに言っているのだろうと思ったようで、俺と目が合うと、視線で本当? と聞いてくる紫苑の頰にキスをして全部本当の事だよと伝えると、紫苑は照れ臭そうに笑って 「だったらすっごく嬉しい!」  と身をよじって俺の首に腕を絡めた。 「えへへ、役に立てた?」 「ああ、ものすごく」  えへへ、良かったと泣き笑いの紫苑は二人にバレないようにコソッと俺の首筋に吸い付いて離れて行った。 「図書館、行こう? まだ開いてる」 「明日な。今日はもう良い……どうせアイツもあの傷で明日また来る事はないさ。飯を食って風呂入ってゆっくりしよう」  こくっと朱殷の喉が鳴ったのは聞き逃さないぞ。こいつ、また何か俺に食物をたかる気でいるな。 「あんな、長。とりあえず鬼国の守りは固めたん。翳狼から聞いたん。敵は異国の神。長い金髪、碧い目やって。そいつが来たら殺してって言うて出てきたし、来たらとにかく報らせてって言うて出たん……明日、行くんやろ? 図書館。私らお留守番……してもええよ? 万が一があったらアレじゃし……」  その代わりに今夜の宿と食事を提供しろという事かと紫苑と顔を見合わせる。つい笑ってしまうのは紫苑も充分に朱殷の性格を理解したと判断しても良いのだろう。 「二人とも疲れたじゃろ? 疲れとるじゃろ? 食事は私と辰臣で買いに行くし。何がええ? 紫苑、何食べたい? お肉? お魚? 鍋? 焼肉?」  矢継ぎ早に質問する朱殷に紫苑は穏やかな笑みを返すと 「ホントは一緒に図書館行きたいんでしょ?」  と俺も内心そうではないかと思っていた事をズバリと聞いた。  朱殷はバツが悪そうな顔で 「う、まぁ……行きたい、けど……」  と言葉を濁し、白群を見遣った。 「そりゃ行ってみたいとは思うけど、俺達だって今がそういう時じゃないって事はよーく解ってる。今は紫苑を狙う異国神をどうにかする事が先決だ。長に無礼を働いて、紫苑に殺害予告をされ。それでここを破壊でもされてみろ、鬼神の沽券に関わる……だけどな、紫苑。俺達がここに来たのは、朱殷が留守番をかって出たのは沽券云々の話じゃないぞ? 純粋に何か力になりたいんだ。俺達は紫苑が好きだ。長の連れ合いとしても、同族としても文句なしだ。そんなお前をどうにか安心させてやりたくて……だがなぁ。さっきの話を聞いて思った。俺には知恵が足りん」 「……そうなん。どうにか役に立ちたいのに、知らん事ばっかりじゃもん。サタン? んなモン知らんし! じゃったら私にできる事なんて、万が一を考えてここを守る事くらいしかないんよ。紫苑に美味しいモンいっぱい食べてもらおって……そんくらいしか浮かばんの!」  悔し気に唇を歪め、拳を握る二人に駆け寄った紫苑は二人の首に腕をかけると少々強引に二人を抱き寄せた。  白群の首が鈍い音を立て、俺は紫苑の鬼化が解けていて良かったと一人安堵した。 「ありがと! 二人とも大好き!」  俺が笑みを零すのと朱殷が目に涙を浮かべるのと白群が俺の顔色を伺ったのはほぼ同時だった。 「んもー! なんで? なんで紫苑はこんな可愛いん!? 何? 何食べたいっ?」 「え? 可愛くはな、ぐぇ苦し……えっと、鍋! 鍋が良い! みんなでワイワイしたい」 「よし! 任せろ! 俺がめっちゃくちゃ美味いのを作ってやる! 行くぞ、朱殷!」  兄の顔で意気揚々と立ち上がった白群の後を追うようにぴょんとソファから立った朱殷。しっかり紫苑の好き嫌いを確認する辺りは褒めてやろう。  飛び立つ天翔(てんしょう)に気を付けてと手を振る紫苑に本当に鍋で良いのかと聞くと、大きく頷き抱き付いてきた。 「ん。鍋ってさ、取り合い? するでしょ? テレビドラマだとやってる。でも俺した事ないんだよね。いつも人数分きちっと分けられててさ。なくなるとお母さんが取り分けてくれて、お兄ちゃんなんだから我慢しなさい! みたいなのもなくて。台湾で朱殷と焼売の取り合いしたの、すっごい楽しかったんだぁ……」  だから鍋! と笑う紫苑の笑顔が痛かった。 「そうか……相手はあの朱殷だぞ? 気を抜くなよ?」 「ね! 負けてらんない。協力してね?」  本当に嬉しそうな紫苑の頰にそっと唇を落とす。  ふわりと笑った紫苑の腕が俺の首に絡んでなんとも良い雰囲気になった途端。 「どんぐりにはマヨネーズなのだ!」  と意味不明の寝言を飛影が叫んで、紫苑が爆笑した。 「あれっ? 私のどんぐりは?」  ぱしぱしと寝惚け眼を何度も瞬き、辺りを見回して夢で見たのであろうどんぐりを探している。 「ぷっ! 飛影、マヨネーズ好きなの?」 「おお、紫苑! こってりしていて大好きだぞ。たまに主人が食べさせてくれる……って主人? 眉間に縦皺を寄せてどうされたのだ?」  バカな寝言で雰囲気ぶち壊しだ。  本来なら引っ掴んで窓の外にぶん投げてやるところだが……こんな阿呆(あほう)な寝言が聞ける事もありがたい事なのだと思うと許してやろうと思えてくる。 「飛影、今日は白群の鍋だ。特別にマヨネーズを出してやる」 「それは本当に!?」  今夜は大騒ぎになる予定だ。  飛影も翳狼も天翔も、食べられる物があればたらふく食べれば良い。  “みんなでワイワイ”を紫苑が望んでいるのだから。 「……ちょ! それ私のん!」 「早いモン勝ち!」 「野菜も食べろ」 「私のマヨネーズがもうないのだ!」 「あ、上等なお肉……」 「生肉美味しい」 「せめて朱殷は俺を待てよ!」 「待っとったら、なくなるんよ!」 「主人! 私にマヨネーズを!」 「ああ! その肉! 俺が狙ってたのに! あ、はい!」  落ち着く暇のないお玉は朱殷から紫苑へ、紫苑から朱殷へ。たまに紫苑が俺の碗へとよそってくれる。  紫苑の望む争奪戦になっただろうか?  俺は紫苑の願いを叶えてやれただろうか?  その答えはきっとこの食欲と笑顔だ。 「信じられん……誰も俺を待たないなんて……」  結局ほとんどの具材を朱殷と紫苑が食べ尽くし、追加の食材を準備し続けてくれた白群が恨み言を言いながら雑炊を食べる姿には申し訳なさを感じる。  お詫びにとびきり美味い食後のお茶を淹れてやろうと思う。 「……なぁ、長。このお茶っ葉、ちょっとちょうだい?」 「紫苑が良いと言ったら良いぞ。それは紫苑もお気に入りだから」 「な、な? しーおん!?」 息を吹きかけるのに夢中な紫苑は朱殷の言葉を全く聞いておらず、いきなり呼びかけられてきょとんと首を傾げた。 「え、何?」 「んとな、この花のお茶のお茶っ葉、分けて欲しいん……長が、紫苑が良いって言うたらくれるて言うんやけど……」 「美味しいよね! 俺も大好き! 鬼国にはないの?」 「ん。菊花茶ならあるんじゃけど、なんか違うじゃろ?」 「柚葉、コレ、買い置きある?」  紫苑の問いかけに頷くと、紫苑は良かったと目を細め、朱殷にまだ開けて間もないレディグレイの缶を渡した。 「はい。白群と一緒に飲んでね? ミルク入れても美味しかったよ? あ、開けてない方が良いよね」 「ううん、ええのん? 缶ごと? くれるん!?」 「うん。この缶もさ、可愛いよね」  女の子は好きでしょ? と言うと紫苑はカップを両手に持って、そっと口をつけた。 「好き! この缶可愛いなってずっと思っとったん!」  目をキラキラとさせ缶をぎゅっと胸に抱いた朱殷は白群の隣から紫苑の隣へと移動し、缶を掲げてここの模様が特に繊細で可愛いと紫苑に説明している。紫苑もそれに頷いて缶を指差し 「色使いも良いよね。一見派手だけど、下品にならないように上手く色を組み合わせてあってさ。全体的に背景色が黒だとキツいし重いけど、これならどんな色が来ても優しい雰囲気でまとめてくれるし味のイメージにも合ってる……すごいよね」  と自分なりの見解を述べている。  色の話をする紫苑は本当に一生懸命で可愛い。 「……ホントにくれるん?」 「良いのか? 紫苑も好きなんだろう?」  朱殷と白群に畳み掛けられて、紫苑は照れ臭そうに顔を伏せて、カップに口をつけた。 「ん。心配かけちゃったし、柚葉が買い置きしてくれてるから……二人も鬼国で同じの飲んでるって思ったら嬉しいっていうか、寂しくないっていうか。鍋も美味しかったし……えぇと……?」  上手く言えないやと照れて肩を竦めた紫苑を朱殷が抱きしめた。 「あー! 紫苑可愛い! ほんっと可愛い! 長に酷い事されたら、絶対教えるんよ? ボッコボコにしてあげるからね! 飛影! 長が紫苑泣かせたらすぐに飛んでおいで!」 「了解!」  片翼でまた敬礼をする飛影を見て紫苑が苦笑いをする。 「紫苑も私の主人なのだ。黙って泣かされるのを見ておるワケにはいかぬ!」 「そうよ、飛影!」 「しかし今日私は主人からご褒美のマヨネーズをたくさんもらってしまった……むむっ……」 「ご褒美だったの!?」  素っ頓狂な紫苑の声に飛影は至ってマジメに頷いた。  カロリーが高いからな。  与え過ぎは良くない。

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