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第四十一話 変わりゆくもの

※柚葉視点になります  緊張からぎこちなかった紫苑(しおん)の表情が和らぐ度に、目の前の床に座り込んで恭しく両手で湯呑みやコーヒーカップを持つ鬼神達の表情も緩んでいく。 「湯呑み、数がなくて。不揃いでごめんなさい」  と申し訳なさそうに紫苑が言えば、最後の休憩を楽しむ鬼神達五人が口々に 「伴侶様にお茶を振舞っていただけるだけで身に余る幸せでございます」 「私のような下っ端を同じ空間に招いてくださるだけでもう涙が……あぁ、下剋上に負けて良かった……」 「なんとお優しい!」 「鬼国に帰ったら自慢ができまする!」  などと大声で喚き膝を打つので、紫苑は目をまん丸にした後、恥ずかしそうに自分の湯呑みに顔を埋めた。  そんないじらしい紫苑の姿を横目に、とんでもない発言をした者に視線を定める。 「おい、お前。下剋上に負けたのは仕方ないとしても、良かった……とはなんだ?」 「ひっ! あ、あの、私、五十位の鬼神殿が報告に戻られた際に挑んだのです……勝っていたら今頃私は人の世の管理者。ここには来られませんでしたでしょうから、(おさ)にも伴侶様にもお会いする事はできなかったと思うと……その、今回ばかりは負けて良かったな、と思いまして……すみませんっ! 今後は精進します!」  己の発言を恥じて顔を伏せた男に紫苑の言葉が降りかかる。 「下剋上で怪我はしませんでしたか? もう大丈夫ですか?」 「は! 三日で完治いたしました!」  無理していないか、本当に痛む所はないかと真剣に問う紫苑の声が血と暴力にはとうの昔から慣れ親しんでいる鬼神達を優しく包む。  ある者はぽかんと口を開け、ある者は目を潤ませている。  下剋上に敗れて己の力量知らずを(わら)われる事はあっても、心配される事はまずない。  それ程までに俺達の世界……特に下位であればある程……は力だけがモノを言う世界だ。 「朱殷(しゅあん)が無理を言って手伝いに来てもらってるんなら、それはダメです。ちゃんと休んで傷を治さないと……」 「大丈夫でございます! 下剋上に敗れたのは半月程も前の話でございます。本当に……大丈夫で、ござ、す」  うう、と呻いて顔を伏せた件の鬼神は紫苑から渡された湯呑みを割れるんじゃないかと不安になる程の力を込めて握りしめている。  優しくされ慣れていない者は優しさに弱い。目の前で湯呑みを握りしめるこの男の胸に渦巻く思いも、今は慣れぬ温もりよりも痛みの方が強いだろう。時間が経てばその痛みは色味を変えるに違いない。 「おい、湯呑み、割るなよ? 数がないんだからな?」 「はいぃ……」  一気に静かになった空間に戸惑う紫苑がそっと俺の手を握った。  何か過ちを犯したのではないかと不安に思っているようだ。  鬼神となっても最大の長所である他人を思い遣る心を失わなかった紫苑が俺は誇らしくてならない。 だから。 「そんな表情(カオ)をするな」 「でも……」 「皆を良く見てみろ……不快な顔をしているか?」  すぅっと人差し指で目前に控える鬼神達を指差せば自然と紫苑の視線が俺の指を追い、彼らの顔をその目に映す。  頰を高揚させる者あれば、目を閉じて瞑想する者もあり、また気恥ずかし気にちびちびと全く鬼神らしくなく湯呑みに口をつける者もあり。  その反応がそれぞれに違う彼らに共通しているものがあるとするならば、目には見えないが純粋な喜びだろう。  何かと引き換えの対価を必要としない心からの労いと、彼ら一人一人に関心を持ち、必死に打ち解けようとする真摯な紫苑の態度は闇に紛れて生きてきた鬼神達の心をしっかりと掴んだようだった。  鬼国に残っている者達もこいつらから紫苑のあれこれを聞いて、話だけで心酔してしまうだろう。  いや、もう朱殷や飛影から聞かされている、か。 「俺はお前が何より愛おしく誇らしい」 「ああ、もう。またそういう事を人前で……恥ずかしいなぁ」  きゅっと眉根を寄せて軽く下唇を噛む紫苑に向かって、鬼神の一人がおずおずと声をかけた。 「畏れながら。我らも伴侶様の事を大変誇らしく思っております。白群(びゃくぐん)様からはいかに貴方様が博学でいらっしゃるか、朱殷様からはいかに澄んだお心の持ち主か。しかと聞いておりました」 「我らのような序列にも入らぬ下っ端にもこうして言葉をかけてくださる貴方様の懐の深さに皆、感無量でございます」 「その通り! 長や伴侶様とこうも近く場を共にするなど、本来ならばあり得ぬ事を貴方様は我らに許してくださった!」  そうだそうだと口々に感謝を述べ、湯呑みを傾ける暑苦しい集団に対して紫苑はほっとしたような笑顔を浮かべた。 「俺はまだしきたりとか解っていないから……」  だからあり得ない事をしでかしても許してくれる? と少し甘えた視線で訴えてくる。  俺はそんな紫苑の肩を抱いて、耳元に口を寄せた。 「今は、な?」 「え、でも……うん。解った」  言葉を切って、こくりと頷いた紫苑の考えなど解り過ぎてしまう。  皆の前で頭領に意見する事を遠慮した――そういう事だ。  俺のメンツを気にかけ、出しゃばらぬよう口を閉ざした。  それを気が利くと褒めるべきか、奥ゆかしいと頬を緩めるべきか、気を遣わせてしまった事を反省すべきか、頭を悩ませるところだ。 「あとで。ちゃんと話そう」  そう囁けば、また一つこくりと頷いた紫苑はふわりと笑顔を浮かべた。  ちゃんと話そう。  その一言で浮かんだ笑みは花一輪が咲いたかのような可憐さで、俺は内心慌てて紫苑の顔を俺だけに向くように掌で包み、他の者達の目から隠したのだった。 「ちょ! 休憩し過ぎ! 手が足らんから来てって辰臣(シンシン)が言いよるん! 早う戻って?」 「申し訳ございませんっ! ついつい嬉しさに長居をしてしまいました」  朱殷に頭を下げ、部屋から出て行った鬼神達が 「まっこと! 飛影(ひかげ)殿の言われる通りのお方! 手伝いに呼ばれなかった者共に大いに語って聞かせてやろうぞ!」 「そうしよう、我らが長は素晴らしい伴侶様を得たと皆に喧伝せねばなるまいよ!」 「それもそうだが、何よりも我らが受けた温情の数々、忘れるでないぞ!」  とやいのやいのと大声で嬉しそうに語り合うのを聞いて、紫苑は盛大な溜め息をついた。 「ありゃま。えらい気に入られたんやね、紫苑」 「当然だ」 「気に入られたっていうか……やっぱり過大評価っていうか……」 「あーまた、そんな事言うて。紫苑は過小評価なんよ」  ピンっと紫苑の額を人差し指で弾いた朱殷はソファではなく、紫苑の目の前の床にちょこんと座り、額を押さえている紫苑を見上げた。 「あんな? うちら、バカがつく程正直なんよ。己の感情、欲望、もっと単純に好き嫌い……そういうの、他の神々よりもずっと隠すんヘタじゃ。媚びるんもへつらうんも苦手じゃ」 「うん」 「紫苑は私やら飛影が色々吹き込んだし、何より長の伴侶やからみんなが受け入れて敬愛を示してくれたと思っとるんかも知れんけど、それはないよ? さっきも言うたけど、私らバカ正直じゃからね。どれだけ良い子じゃ、すごい子じゃて聞かされとっても自分が納得できんかったら、いくら長の伴侶でも顔や気に出るん。そんなの一人でもおったん? 嫌な顔して刺々しい気を放ったのはおった?」  ふるふると首を左右に振る紫苑の手を朱殷は両手で包み、覗き込むようにして紫苑の目を見た。紫苑はきょとんとしつつも、真っ直ぐに朱殷を見つめ返した。 「私は紫苑が大好きじゃ。じゃからそんな不安そうな顔をさせてしもうたんが申し訳ないん」 「朱殷のせいじゃなくて……俺まだ解ってない事が多いから、柚葉にやっぱり恥かかせてどうしようもないなとか、色々考えちゃって……」  ボソボソと呟かれる言葉は尻すぼみに消えて行く。 「長、恥かいたん?」 「いや? だがあいつら見過ぎだな。遠慮を知らん……俺のなのに」 「そりゃ見るん。紫苑は可愛いし、優しいもん」  そんな事は……と謙遜する紫苑の髪に指を通すと胸に湧き続ける思いが口をついて出た。 「紫苑はそのままで良い」  序列に囚われず、ありがたいと思えば素直に頭を下げる紫苑で良い、と言うと朱殷は目を細めてふふっと笑い、紫苑は複雑な思いを顔に貼り付けて俺を見た。 「でも、それじゃ、しきたり無視して柚葉に恥かかせちゃう……」 「しきたりと礼儀は違うだろ。俺はずっと長い間頭を下げられる立場だった。今後も下げる必要のない頭を下げる気はない……が、ただただふんぞり返っていれば良いとも思ってはいない」 「そうそ。長は頭は下げんけど、ちゃんと(ねぎら)いの言葉をくれるんね。それは紫苑から見たら横柄に見える時があるかも知れんけど、嬉しいもんなんよ?」 「嬉しく思われるかどうかは心底どうでも良いが」  本心を言えば朱殷は紫苑の手を握り直して軽く揺すって自分に視線を戻させた。 「な? こういう言い方、偉そうじゃろ? んでも言い換えれば、相手がどう思うかは関係ない。長がそう思っとるから言葉が出るっちゅう事なん。これが大事なん。気持ちの伴わん言葉もろうても私ら嬉しないもん。紫苑が心から笑ってくれるんが嬉しいん。だから、そういう事じゃな? 長?」  朱殷の語りかけに小さく頷いている紫苑の横顔が可愛らしく、見つめていたら朱殷に話を振られた。  未だに話が見えていないらしい紫苑の揺れる瞳が俺を再び映す。  戸惑い、叱責をも覚悟する濡れた瞳がいじらしく愛おしくてならない。 「しきたりなぞ作り変えていけば良い。紫苑が息苦しいしきたりなぞ要らん」  だからそんなに哀しそうな目をしなくて良い。  そんなに不安そうな表情(カオ)をしなくて良い。 「今までがそうだったからといってこれからも必ずしもそうしなければならないというワケではないだろう?」 「えっ、俺、頭下げちゃうよ? 絶対に無意識でヒョコってしちゃうよ? 良いの? オドオドしちゃうよ? こんなんじゃ鬼国行っても柚葉のメンツ潰しちゃうばっかりなんじゃないの?」  ほわっと頰を染めて一生懸命にできない事を言い募る紫苑は困ったように眉を八の字に下げる。 「さっきも俺のメンツを立ててくれたな? ありがとう。その気持ちが伝わればなんの問題もないよ」 「さっき……?」  できた事は、全くの無自覚か。  首を傾げた紫苑は視線を宙に彷徨わせ、俺の言った“さっき”を記憶から探っている。 「解らないならそれで良い。それが紫苑なのだから。俺はありのままの紫苑を愛している。だから、な? 無理して変わろうとしなくて良い。そのままで良い」  解ったか? と問えば眉根を寄せた一瞬の後 「ごめんね」  と呟き、しゅんと(こうべ)を垂れてしまう。  どこまでも正直で驕る事を知らない紫苑を抱き上げて膝に乗せると、朱殷はスッと立ち上がり 「お邪魔虫は階下のお手伝いに行こうかなぁ。あ、長。翳狼(かげろう)にはいっぱいがんばってもろうたから、本当にありがとう」  と言い残し、ドアが閉まる寸前で振り返ると紫苑にひらひらと手を振って出て行った。 「早速翳狼を呼ぶか?」 「うん……でも……」 「ん?」 「俺、ホントにしきたりも何も知らなくて、白群みたいに大工仕事できないし、朱殷みたいに話上手でもなくて……」  こんな時、どうすれば紫苑を納得させられるのかと悩んで、つい笑ってしまった俺を紫苑が唇を尖らせて軽く睨む。 「紫苑、キスを」 「……うん」  ――柚葉の望むような伴侶(オレ)になれないよ――  それが紫苑の悩みなら、俺はこう返すだけだ。  ――望む紫苑はもう腕の中にいる―― 「……っん、ゆず、本当?」 「当たり前だ。あぁ、ほら泣くな。これから翳狼を呼ぶのに紫苑が泣いていたら俺が怒られて、飛影が朱殷に密告してしまう」  溢れてしまいそうな涙を吸い取る為に目尻に唇を寄せると、すぅっと唇に馴染んで消えた。 「ボコられるんだぞ?」 「ん。そうだった。柚葉悪くないのにね」  すん、と鼻をすすって俺の肩に額を預けた紫苑の背中を撫でつつ、念を込めて翳狼を呼ぶ。  あいつはマジメな奴だから、決して開けろと急かす事もなくドアが開くまでじっと座っているだろう。 「さ、準備して。翳狼を驚かせよう」 「待って。えっと、袋がいっぱいで……あ、あった!」  やっと笑顔の戻った紫苑は手に持った包みをサッと背後に隠すと、澄ました顔を作ってドアを見つめた。 「翳狼、ご苦労。こき使われたらしいな?」 「いいえ。お役に立てれば幸いですから、いくらでも。館に木の良い香りが漂って心地良うございます……して、ご用は?」 「あぁ、紫苑がな」  ソファに座った紫苑の方へ鼻先を向けた翳狼が俺を見上げ、何事かと不安そうに少し耳を寝かせた。 「翳狼、こっち来て?」 「はい。どうされました? 紫苑様?」 「翳狼にはいつも守ってもらって、色々と連れて行ってもらってて。本当に今までありがとう。それでね?」  ゆらりゆらりと揺れていた翳狼の尾がピタリと止まり、ものすごい勢いで俺を振り返った。 「翳狼?」 「はっ、私……嫌です! お二人から離れたくありませんっ!」 「え?」 「は?」  カチャカチャと床を掻く翳狼の爪音の乱れがその慌てっぷりを見事に示している。  荒い呼吸を繰り返しながら翳狼は座りたいんだか伏せたいんだか走りたいんだか、紫苑の方へ一歩踏み出しては踵を返し俺の方へ一歩歩き出し、ぐるぐると目まぐるしくその場で動き回った。 「え、翳狼? 違う、あのね?」 「申し訳ございません……口答えするなんて……でも、ああ、私はあの時もあの時も紫苑様をお守りできなかった!」 「違うんだ!」  ソファから飛び降りて翳狼の首に抱きついた紫苑は珍しく狼狽した翳狼を必死に宥め、言い方が悪かったと謝っている。 「翳狼よ。お前、そんなに慌てん坊だったかな?」  ペッタリと耳を寝かせた翳狼の頭を一撫でして、紫苑が隠していた包みを開けて翳狼の首に二人でああだこうだと選んだ帯紐を垂らす。  首から床へと垂れた一本の鮮やかな紺色をベースに金糸と銀糸の混ざった帯紐めに目を留めた翳狼がグルルッと鼻を鳴らして身を硬くした。 「ごめんね、言い方が悪かったよね。これね、柚葉と選んだんだ。気に入ってくれると良いんだけど……どうかな?」 「う、あ? え?」 「さぁ、紫苑。忘れないうちに」  豪華で解けない結び方を習って、俺を翳狼に見立てて何度も練習していたのだから早く結ってやって欲しい。 「おっしゃ!」  シュルシュルと長い紐も器用に編み上げていく紫苑は真剣になっている時の癖でツンと上唇を尖らせている。  翳狼の尾が再び左右に動き出したのを確認して姿見を取りに部屋を出た。 「紫苑様、本当に?」 「うん。いっぱいありがとう。これからもよろしくね?」 「あ、あ……なんたる幸せ! 先程は取り乱してしまい恥ずかしくてなりませぬ」 「あれは俺の言い方が悪かったから」 「本来なら嫌だなどと私が言う権利はないのです。解っていながら、それでもつい……」 「俺も嫌だ。これからも翳狼と飛影と過ごしたい……あ、首周り苦しくない?」 「はい、大丈夫です。紫苑様?」 「ん? どこか痛い?」 「いいえ。ありがとうございます」 「まだ早いよ! 最後にコレを着けるんだ。綺麗でしょう? 一目惚れしちゃった」  なんの花だろう? と問いかける紫苑に翳狼が低く唸りながら白根葵や見上げた蓮華升麻に似ているけれど……と答えている。 「しかしどちらも違いましょう。恐らくは人の想像から創り上げられた幻の花。人とは全く素晴らしい能力を持っておりますな」 「職人さんってすごいよね! 見て見て、ここの蔦に彫り込まれた紋様。これとか全部手彫りなんだって! って柚葉遅いなぁ。早くつけてあげたいのに遅いなぁ!」  飛影と紫苑の遣り取りは何度も耳にしていたが、翳狼とはどんな事を話すのかとつい姿見を片手に立ち聞きをしてしまった俺を紫苑が責める。  俺の立ち聞きは……バレているようだ。 「結べた?」 「見て。ばっちり!」  よくぞあの複雑な結い方を短時間で覚えたものだ。  翳狼の胸元で幾重にも重なった結び目が翳狼の美しさに華を添えている。 「すごいな。似合うぞ」 「コレを通して、と。完璧! 翳狼、鏡を見て? どう? 動きにくい?」  ああ、と感嘆の溜め息を零して鼻先が鏡面につく程に身を乗り出した翳狼の尾が左右に更に大きく揺れる。 「この魂搔き消えるまでお二人に忠誠を誓います。お許しいただけますか?」  耳もピンッと立てた翳狼はいつも以上に気高く、取り巻く気が輝いてさえ見える。 「もちろんだ。これからもよろしく頼むな」 「翳狼も春からもっと大忙しの予定なんだよ?」 「大忙し?」 「うん。だからこれからもよろしくね」  飛影を描き終わったら次は翳狼を描くのだと言っていた。そしてまだ知らぬ土地に行って美しい景色を描きたいとも。  春、咲き乱れる花々に囲まれて上唇を尖らせながらスケッチブックを胸に抱く紫苑に最も美しく広がる景色が見える場所を教えるのは飛影で、色を重ねていく紫苑の背もたれになるのはきっと翳狼で、俺はそんな三つの愛しい魂を見つめながら穏やかな時を過ごすのだ。 「お二人の為に生きるが私の誇り」  死ぬが誇りと言わなかった翳狼に紫苑は弾けるような笑顔を見せて、ぎゅうっと首に抱きつく。  して、大忙しとは……? と首を傾げる翳狼に紫苑はコショコショと耳打ちし、翳狼はその大きな舌で紫苑の顔を舐め回す。  くすぐったいと笑う紫苑に、甘えて鼻を鳴らす翳狼。ここに飛影がいれば更に大騒ぎか。  紫苑が塗り替えていく俺の世界が殊更愛おしくてならない。

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