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第五十四話 友を囲んで

※柚葉視点になります。 すっかり紫苑(しおん)に懐いた孔雀は重いから、と遠慮して頭だけを紫苑の膝に乗せている。 「孔雀、孔雀! 人参を梅の花の形に切ってもらったぞ! それと茶碗蒸しの中からギンナンをいただいて来た……お宝なのだ。一緒に食べよう? あ、ひょっとして味が付いている物は食べられないか?」 「大丈夫です。飛影(ひかげ)様、ありがとうございます」 「むむっ! 飛影様はやめて欲しいのだ! 飛影で良いのだ! もう私達はお友達でお仲間なのだから、ざっくばらんなのが良いのだ……でないとなんだか寂しい」 「お友達……初めてで……空があんなに楽しいとは知りませんでした」 「お! そういえば空では助けてもらったのだった! 見ていたか、紫苑? 天翔(てんしょう)の羽ばたきに翻弄された私を孔雀は」 「見てたよ! 孔雀のおかげで飛影遠くに飛ばされなくてすんだね」 くすくすと笑う紫苑はゆっくりと孔雀の身体を撫でて労っている。 「お礼の品もおねだりしてくる! 何が食べたい?」 「昔はけっこうなんでも食べていたのです。精霊となってからは、森に落ちている木の実をいただいておりました」 「ううむ、難しいな。私は悪食でなんでも食べてしまうから……よし! とりあえずおねだりに成功した物を食べ終わったら、デザートに果物をいただいて来よう」 聞き慣れない言葉だったのか、孔雀は紫苑を見上げてデザートとは何かと聞いている。紫苑は少し考えて 「食事の後に食べる、別腹の甘い物だよ」 と教えて、飛影が手に入れた人参を指で摘んでにこにこしながら孔雀の口元へ差し出した。 「自分でっ食べられますっ」 「今日だけ特別。ダメ?」 「あ、の、(おさ)はお許しに……」 俺に気を遣ったのか孔雀は紫苑の膝から頭を上げて黒曜石のような瞳で真っ直ぐに俺を見た。 「おお、許す! たんと甘えて、たんと食わせてもらえ」 これが飛影だったら、正月だからと甘えるな! とゲンコツの一つでも落としただろうが、相手は孔雀。 それも紫苑と同じ傷を心に刻んだものを相手には、さすがの俺の独占欲と嫉妬心もナリを潜めている。 「いただきます」 「あ! 紫苑、私も私も! あーん!」 「飛影! お前……ふっ、まぁ良い。紫苑を困らせぬ程度に甘えろよ?」 「了解いたしました!」 ビシッと翼で敬礼を決めて見せた飛影はマヨネーズを忘れたと騒いで、結局は白群(びゃくぐん)の手を煩わせてしまった。 「すまんな」 「いえ。正月祝いに披露宴に歓迎会。楽しくて良いです」 天照(アマテラス)(えんじゅ)は孔雀が紫苑にベッタリなのを見届けて安心したのか 「乱入して悪かった。無事に神楽も舞えたし、まぁ祝えたし? 我らは帰るぞ」 「え? もう? あ、常闇の! 俺、今西日本の田舎の(やしろ)にいて。常闇のトコの管理者見かけたら伝言頼むから、人間界(アッチ)でも会おうぜ! って天照様! 待って! 耳、痛いっ! 引っ張らないでっ」 「お黙りっ。私も八咫(ヤタ)と旧正月を祝いたいのよ」 「だからって俺まで!? いたっ、耳、もげるぅー!」 と最後まで大騒ぎで帰って行った。 聞けば(はなだ)の酒を二樽も持って帰ったというから、ちゃっかりし過ぎだと思うが、静かになったから、まぁ良しとしよう。 翳狼(かげろう)は俺の隣で肉を頬張っているが、本当は俺と紫苑の間にいたいのだろう。たまに紫苑の方へチラリと視線を投げるからすぐに解る。 それでも行かないのは。 「私は肉食ですから、肉の匂いで孔雀の具合が悪くなっては可哀想でしょう? 孔雀はもう私達の大切な仲間。紫苑様の使い魔。大事に思うのは当たり前です」 と見事なまでの忠犬ならぬ忠狼ぶりだ。 「翳狼様、私、昔お肉も食べてました。だから大丈夫ですよ?」 「私も呼び捨てが良いですよぅ! ところで主人(あるじ)、どう思われますか? 孔雀は精霊となってから長い間、木の実しか口にせず、あとは自然の霊気を取り込んでいたのでしょう? ならばやはりいきなりお肉は……」 「あぁ、そうだなぁ。しかもほぼほぼ生だしな。ちとキツいだろうな」 「……ですよね」 「ごめんなさい」 しゅんとした翳狼に謝る孔雀の声の質が幼い頃の紫苑と被る。 謝る必要もないのに謝って、謝る度に本人すら気付かぬまま心に(オリ)を溜めていくというのに。 「謝るな、孔雀。好みはそれぞれ違うのが当然だ。飛影を見てみろ、刺身にマヨネーズだぞ!? 邪道だとは思わんか?」 「むむっ美味しいのだ! さっぱりとし過ぎた白身をマヨネーズのコクと酸味がお醤油ごと閉じ込めて……」 「マグロはどうなの?」 「試してみるが良いぞ、紫苑。マグロ特有の青臭さというか魚臭さをマヨネーズが優しく包み込んでマッタリとした深い味わいにしてくれるぞ!」 「ん。やめとく」 「んなっ!」 紫苑の手から差し出された人参の煮物に嘴をつけたまま二人の遣り取りを呆然と見つめていた孔雀がぱちぱちと忙しなく瞬きをして、ついに 「ぷっ!」 と吹き出した。俺からしたら日常の会話が孔雀には漫才か何かに思えたのかも知れない。 「ぷっふふっ……ごめんなさ……食事って楽しいんですね」 「楽しいし美味しいのだ! うーむ、孔雀もマグロとマヨネーズが食べられたら、本当にオススメなのだ。大トロの脂をマヨネーズの酸味が打ち消して……」 「孔雀、やめといた方が良いよ。食べたいように食べるのが一番なんだから。はい、これはなんだろう? 里芋かな?」 「紫苑とは味覚が合わぬのだ!」 フンッと鼻を鳴らす飛影に朱殷(しゅあん)がカラカラと笑いながら 「ごめんねぇ。お刺身にマヨネーズは私もムリなん!」 とキッパリと言ってのけて、飛影は足踏みをしながら悲嘆にくれた声を上げた。 「どなたか! 私とマヨネーズの素晴らしさについて語り合える味覚の持ち主はおられぬのか!」 「お前、自分で悪食だと言ったじゃないか。悪食だ、悪食!」 「あーるーじー! そこは、どうにかモノは言いようで個性的だとか、なんとか擁護して欲しかったのだ!」 「あははっ! 私は、私はとても素敵な主人様とお友達を一気に手に入れてしまったようです。ふふっ、紫苑様、お芋も美味しいです」 「孔雀、これは? レンコンをね、食べやすいように小さく切ってみたん。あ、私は副頭領の朱殷。天翔の主人なん。さっきマヨネーズ持ってきたのが私の大事な伴侶殿なん。よろしくね?」 副頭領と聞いて、慌てて紫苑から離れて頭を下げようとした孔雀に朱殷はご機嫌でレンコンとは別の皿を出す。 「これはさっき飲んでもらったお水から作られたお酒なんよ。これなら飲めると思うん。お正月じゃし、今日は長と紫苑の大事な記念日。孔雀ともご縁が生まれた素敵な日。こんなにおめでたい事が重なるのは珍しいからね、孔雀も一献」 「いただいてもよろしいですか? 紫苑様」 「もちろん」 聞かなくても好きに飲んで食べて良いんだよ? と言い聞かせる紫苑に孔雀は首を傾げる。 使い魔が主人の意を確認せず行動する事に躊躇いがあるのか、初日だから仕方はないが遠慮が抜けない。 俺も紫苑も、そんな堅苦しい関係など望んではいない。例え主従関係であったとしても、だ。 「おい、孔雀! 目の前に良い手本がいるぞ! 飛影を見習えば良い」 「飛影、を?」 「ん? なんだなんだ? よく解らんが紫苑、紫苑! 今日は海老さんを剥いて欲しいのだ!」 「なる、ほど……紫苑様、あの、わた、私も海老さんを食べてみたいです……あの、ごめ」 「良いよ! 待ってね!」 孔雀に最後まで言わせなかった紫苑は鼻歌混じりで自分の膳から海老を取り出すと器用にペリペリと剥いて、食べやすいように千切って飛影と孔雀の前に置かれた皿に置いた。 「お待たせ。孔雀はムリして食べちゃダメだよ? 飛影はマヨネーズのつけ過ぎ禁物ね」 「手厳しいのだ、紫苑。お正月なのだぞ? 海老マヨは至高の一品ぞ!」 つけるな、とは言われていないからほんのちょっぴりとマヨネーズをつけた海老をもしゃもしゃと食べる飛影を孔雀は何故か尊敬の眼差しで見ている。 「そんな具合で甘えれば良い。他の神は知らんが、俺達はこうだ」 「はい。がんばります」 「がんばんなくって良いよ。孔雀は孔雀のままで良いんだって! ね? 柚葉(ゆずは)?」 「そうだな。ゆっくり慣れていけば良いだけの事。焦る必要も無理に合わせる必要もないぞ。誰の顔色を伺う事もない、好きにして良いんだからな」 そう言うと孔雀は紫苑に一礼すると俺の隣に座り込み、長い首を伸ばして膝に頭を乗せた。 「お前、痛かろう?」 「好きにして良いと仰ったのは長です。痛くないです」 「しかし先程は」 俺の指が頰を掠めた時、痛そうにしたではないか、と不思議に思っていると膝の上で孔雀はまるで猫のように喉をコロコロと鳴らした。 「あれは、身構えました……痛かったらどうしよう、私みたいなものを受け入れてくださったのに私の身体が大切な紫苑様の伴侶様を拒絶なぞしたらどうしよう、と……でも本当に痛くないのです。長からは紫苑様を想う柔らかな気が溢れ出て、紫苑様のお側となんら変わりません」 「そうか。その言葉、信じるぞ」 紫苑を見ればなんとも嬉しそうに俺と孔雀を見て微笑んでいる。 「孔雀、可愛いでしょ!」 尾羽をゆっくりと撫でながら問う紫苑も充分に可愛いうえに、俺が紫苑に言い聞かせた言葉を今度は紫苑が孔雀に伝えている姿は予想以上に胸にキた。 「あぁ、愛くるしい仲間が増えたな」 「ん、柚葉、コレ孔雀にあげて? レンコンは大丈夫だと思うけど、海老はどうかな?」 紫苑から皿を受け取ると、孔雀は嬉しそうに 「紫苑様に剥いていただきました!」 と報告してくれて、食べてみたいですと言う。 隣にいたんだから知っている、と言えば孔雀はしょげてしまうだろうか? 紫苑からも孔雀を気にかけてくれというような気が流れてくるし……そんなわけで俺は孔雀の頭を一撫でして、皿から海老を摘んで口元に差し出してみた。 「まずは一口。ダメそうなら無理はするなよ? お前が無理して苦しめば紫苑が悲しむからな?」 「はい、長。お手から失礼します」 「礼儀正しい事だ……飛影に見習わせたいくらいだ」 褒めれば嬉しそうに目を細め、ちょこちょこと海老を啄む姿はやはり幼い頃の紫苑に重なった。 上手だね、と絵を褒めれば頰を上気させて照れくさそうに笑い、初めて食べるおやつを出せばおっかなびっくりで小さな口で頬張って 「おいひーね、コレ!」 と目を丸くした紫苑を思い出していたら、孔雀が小さな声で 「美味しいです。食べられそうです、長」 と俺を見上げて目を細める。そんな仕草も紫苑と似ている。 「食べられるだけ食べろよ。他に食べてみたいものがあればなんでも言え。きっと……」 「私がおねだりしていただいて来るのだ!」 「その時は私も一緒に! 孔雀が好きな物をたくさん運んで参りますぞ!」 「な?」 「くふふ……はい! こんなに幸せで良いのでしょうか?」 一体どれだけの長い時間を孤独の中で生きてきたのか。どれだけの心無い言葉に傷付き、それに耐えてきたのか。 どこか突き離すような態度だった孔雀を思い起こすと、期待して裏切られるつらさから自分を守ろうとしていたのだろうと容易に想像がつく。 槐がどこまで紫苑の事を知ってこの孔雀を託したのかは正直、謎だ。 「海老が食べられるなら、白身魚で団子でも作りましょうか?」 「あ、副頭領」 「白群だ。よろしくな、孔雀。俺と朱殷はよく長の所へ遊びに……いや、挨拶に伺うから、人間界でもよろしくな。こう見えて俺は料理が好きでな。どうだ? 根野菜と白身魚と海老のすり身で団子を作ってやろうか?」 「こちらこそ! よろしくお願いいたします! あ、お団子……」 どうしましょうと言いた気に俺と紫苑を見る孔雀が答えを出す前に翳狼が 「私食べたいです! きっとみんなも食べたいと思うのですが……ね、飛影?」 と白群にねだって、飛影も嘴にマヨネーズをつけたまま大きく頷き、孔雀に白群と縹の料理の上手さを語っている。 「俺も食べたい! 柚葉も食べるでしょ?」 「ああ、そうだな。いただこうか」 うっしゃ! と両膝を叩いて勢いをつけた白群は片栗粉は足りるっけ? と呟きながら台所へと消えた。 ――数分後。 海老と鯛をすり潰し、食感にもこだわった結果、人参やクワイの細切れも一緒に丸められた団子には卵の白身を上手く散らした餡のかかった白群渾身の一品が淡い色合いの萩焼の皿に盛られて目の前に置かれた。 「熱いから、気を付けてな?」 「ありがと!」 嬉しそうな紫苑の声に呼応するように、会場が沸き立つ。朱殷と縹が配り歩いているようだ。 「副頭領、誠に申し訳ないです」 「縹殿、いつもありがとうございます」 「ん! 早よ食べり! お代わりが欲しかったら辰臣(シンシン)に言うて! 私も早よ食べたいん!」 「お二人ともどうぞ長の側でお召し上がりください。我等、自分で取りに行きますから」 美味い、すごいの大合唱に飛影と翳狼は目の前で湯気を上げている団子が早く冷めないかと生唾を飲んでいる。 孔雀は興味津々で皿の中をじぃっと見つめ 「食べるの、もったいないですね。キラキラしててとても綺麗」 と溜め息を零して、白群を有頂天にさせた。 「たっくさん作ったからな! 遠慮せずにたくさん食べろよ?」 「はい、白群様」 うーん、と唸った白群は孔雀に触れようとした手を慌てて止めて、空を掻くと 「様は違うな。俺はお前さんの主人でもなければ頭領でもない。だから飛影や翳狼みたいに呼んでくれたら良い」 「様はダメなんですか? 紫苑様」 「うーんとね、俺も良く解ってないんだけど、序列が関係してるみたいだよ。飛影達は朱殷殿、白群殿って呼んでるから、孔雀もそう呼べば良いと思うよ?」 「あの、飛影や翳狼は長の事を主人、と。そして紫苑様の事は名前で……でも私の主人は紫苑様で。となると私は紫苑様を主人と呼んだ方が良いのでしょうか? 長の事は、そのまま長とお呼びすれば良いのでしょうか?」 ちらりと紫苑と視線が絡む。 「俺の名を呼んで良いのは紫苑だけだ。だから長だろうと頭領だろうと好きに呼べ。紫苑は?」 「そうだなぁ……様なんてくすぐったい気もするけど、主人って呼ばれたら柚葉の事か俺の事か解んなくなっちゃいそうだし……孔雀が呼びやすいので良いよ?」 「はい、紫苑様!」 「紫苑様で決まりだな」 「あはは、そうみたい……照れくさいな。呼び捨てでも良いんだけど……あ、孔雀の名前も決めなくちゃね」 「もう決めたん? 候補とかあるん?」 「ん、まだ。これからずっと呼ぶ名だもん。綺麗なのが良いし、孔雀にも気に入ってもらいたいし、悩んでんの」 「楽しみじゃな、孔雀」 「はい! 朱殷様! あ、朱殷殿!」 朱殷の両手がわきわきと動いた。 「んーっ! 可愛いっ! 素直で、綺麗でなんともなんとも愛くるしいん!」 「触れるなよ、孔雀に痛みを与えたら、皆の前だ。お前とて例外ではないぞ」 「あうう……ちょっとだけ! ピッて掠るだけ! 頭の冠をちょんってするだけでも……ダメじゃろうか?」 「待て。待て、待て。ここでは止めろ。鬼の気が強い。人間界で鬼化していない状態なら、ひょっとしたら……だから今は待て!」 待てを連発する俺に朱殷はぷっくりと頰を膨らませた。 「待て待てって、犬じゃないん! 解っとるん。私じゃって孔雀が痛いのは嫌なん。せっかくできた新しいお友達なのに」 「お友達? 副頭領と、私が?」 「そうじゃ〜! 私と孔雀の間には主従はないん。じゃったらお友達じゃろ?」 うふふ、と笑う朱殷をぽけっと口を開けて見ている孔雀は、一瞬の後、途端にオロオロし始めて羽の中に顔を埋めてしまった。 「ありゃ、お友達は嫌じゃったろうか……」 俺と紫苑の顔色を伺う朱殷はなんとも不安そうだ。 紫苑はなんとなく理解している、という表情で孔雀の背を撫でているし、俺はどう声をかけようかと考えていると、蚊の鳴くような孔雀の声が聞こえた。 「お友達、増え過ぎました……嬉しくてどうしたら良いのか、解りません……」 「嬉しかったら、顔を上げて、朱殷が切ってくれたレンコンを食べてあげたらどうかな? きっと朱殷は喜んでくれるよ?」 「しおーん! やっぱり紫苑も可愛いんっ!」 「わっぷ!」 孔雀の分もまとめたのか、ぎゅうっと紫苑に抱きついた朱殷は俺を見て何故か不敵な笑みを浮かべた。 「なんだ? その顔は」 「うふっ。新春初抱き、なん」 「離れろ、バカ者」 孔雀を潰さないように、料理を零さないようにとかなり無理をしている姿勢の紫苑はいつもの照れたような困ったような笑みを浮かべて 「朱殷、いつもありがとう。今年もよろしくね。一緒にお菓子食べたり、お茶したり、いっぱいしたい。孔雀にも可能な限りかまってあげて? 俺もすごく嬉しかったから。その、俺もずっとみんなに会うまで寂しかったから」 と早口で伝えて、頰を赤くした。白群もだよ! と真っ赤な顔で言い足した紫苑は縹の名も加えて、彼らは信じて良い人達だよ、と顔を出して様子を伺う孔雀に向かって説明した。 「うぅ、可愛い……」 「俺、泣きそう」 「この前はみんなで人間界のお正月をしたのだ。次は、お花見であろうか? 森のみんなにも紹介したいし、戻ったら大忙しになるのだ!」 「……冬眠してる友達もいるんじゃないの?」 そうであったー! というマヌケな叫びに、紫苑は慌てて 「起こしちゃダメだよ? 春が来ればちゃんと起きるんだから、起こしちゃダメだよ!」 とマジメに言い聞かせ、飛影はうんうんと何度も頷いている。 「うるさくてすまんな」 そっと紫苑の代わりに孔雀の背を撫でれば、孔雀はゆっくりと頭を左右に振った。 「紫苑様や長の手は温かくて、レ、レンコンも人参もお芋もお団子もお酒もお水も全部美味しくてっ、皆様が優しくてっ……今までの孤独が嘘のようです。きっと私は今日この日の為に消えずにいたのだと思いますっ」 鬼神の頭領の名に懸けて、独り過ごした長さなど一瞬だったと思える程に長い時を与えてやろう。 もちろん、誰一人欠ける事なく、賑やかで穏やかな時間を、だ。

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