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第16話

 だって篠山は自分のことを彼に任せていいとい云ってくれたのだから。それで自分たちは恋人になった。だからそれは特権なのだ。  思いきって不安を訴えはじめると図らずも情緒が乱れてしまった。話の途中でなんども帰ると叫んで、彼に背を向け暴れてしまったのだ。あんな癇癪、人生ではじめてだ。自分自身驚いている。でもそのあとの篠山のセックスはとても情熱的で、身体も心もがとろとろに。  それで羞恥と快感すぎる快感に身の置き場がなくなってしまった神野は、結局篠山の手を振りきってそのままマンションを飛びだした。アパートまで帰る道中はふわふわと夢見心地で歩いた。 「あんっ……、ふぅっ」  あのとき篠山に膝を床につかされて手首を掴まれた神野は、傍らにあったベッドに乱暴に押しつけられた。そしてすぐに背中に覆いかぶさってきた彼に、あっという間にパンツをずりおろされ、熱く滾ったものを手荒に潜りこまされたのだ。 「んああぁんっ」  思いだしただけで出てしまいそうになった神野は、慌ててペニスの根もとをぎゅっと握りしめた。  火照る身体を冷ましてさっさと寝るのが目的ではじめたマスターベーションだったのに、もう本来の目的はどこへやら。我を失い篠山のペニスの動きを真似て体内に押しこんだ指を動かしていく。 「んんっ。や、だっ」  胸をベッドに押しつけ、彼に向かって尻を突きだす体勢を取らされた。後ろから乱雑に突かれるたびに床に立てた膝がひどく痛んだ。  それでも篠山に首や耳を舐められたり齧られたりするたびに官能が全身に巡り、快楽とそして彼とベッドに挟まれた圧迫感とをいっしょくたに味わった。  重くて苦しいけど、気持ちよくて。それにどこもかしこももみくちゃにされている感じが、彼に強く求められているのだという錯覚を生み、それらが相乗効果になってさらに自分は高かみに導かれていったのだ。  ぐいぐいと頬をシーツ押しつてみると、あの瞬間といまが徐々にリンクしていく。やがて彼がドプッと自分の最奥を濡らした感触を蘇らせた神野は、びくんっと身体を引き攣らせて、あてがっていた手のひらに精を吐きだした。  もう片方の手は尻の(あわい)にあてがったままだ。濡れたほうの手から体液が零れてシーツを汚していくのに、なにも用意していなかったことを悔いたが、それでも全身を痙攣させる悦楽の波がひいてしまうまでは、挿れた指を抜くことはしたくない。  荒くなった呼吸のせいで布団のなかは熱気に蒸れ、全身にしっとりと汗をかいていた。 「んっ……んんっ……」  余韻を愉しみ喉を鳴らした神野は、このちいさな穴に篠山に射精されてぐっしょりとなかを濡らされたことを性懲りもなく思いだし、またぶるぶるっと腰を震わせた。  性急に身体を繋げてきた篠山が避妊具をつけていなかったことに気づいたのは、彼が射精したあとだった。避妊具はベッドサイドチェストのうえで彼のすぐ手の届くところにあったのだがよっぽど暴れる自分に手を焼いての所業だったのだろう。  熱いものがびゅっと体内で迸ったときはそれがそうだとすぐにはわからなかったのだが、自分を抱く腕にぎゅっと力をこめた彼が艶めかしく息を吐いたことと、じきに排出されたものでとろっと内腿が濡れてきたことで、(ようや)く彼が自分のなかで射精したのだと気づいたのだ。  神野は頬を上気させ満足げに微笑した。なにせ体内(なか)射精()されたのははじめての経験で、それは思いのほかよかった。  そして気持ちよすぎて腰砕けになった神野がへたりこむのにあわせて、彼はペニスを抜くこともしないまま器用に自分を床に転がした。そこでまたもう一回。  二度目はベッドに胸をぴったりとつけていた一度目とは違い、背中の愛撫だけではなくて乳首も丹念に弄ってもらえた。  ()れた自分のペニスのさきが冷たい床に(こす)れ射精感を促すのに加えて、直腸のなかにある好きなところもたくさん狙って突かれ――。  それでもうスウェットが肌に擦れるのも、篠山の息が皮膚にかかるのも、すべてが良くなってしまって、全身が性感帯になってしまったのではないかと思えるくらいに、神野はとろんとろんになったのだ。    ペニスが先走りの体液で床をどんどん濡らし汚していったが、そんなものよりももう違うほうを漏らしてしまうのではないかと案じたほどだ。 (あぁ、最高に気持ちよかった…‥) 「はふっ」  神野はそっと体内から指を引き抜くとティッシュで軽く始末をつけ、それから裸足のまま洗面台に向かった。床は冷たかったが熱をもったいまの自分にはちょうどいい。  足を忍ばせて暗いダイニングを通るときにそこに漏れてくる明かりがないことから、春臣はすでに寝ているとわかる。  彼はとても寝つきがいいし、一度寝てしまえば朝までなかなか起きない。自分の悪さはきっとバレていないはずだ。  家で過ごすときはたいていこのダイニングのソファーを陣取っている神野だったが、今週はほとんどここにいることがなかった。遼太郎と篠山のことで思い悩む姿を春臣に見せて心配かけたくなかったのと、そしてもうひとつ。

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