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第10話
「あはははっ、下ろさなーい」と篠山は愉快そうに大股でずんずんと廊下、リビングと抜けていった。
「すこし重くなったな。力もついたし」
ポンとベッドに下ろされたとき、そう云った篠山の満足そうな笑顔が視界に入った神野は、せつないよう泣きたいような気持ちで胸がつまった。怒っていたのに、途端にぎゅっと彼にしがみつきたくなって困ってしまう。
「……そんなの、自分ではわかりません」
ベッドサイドの引きだしを開けている篠山をぼんやりと見ながら呟いた。
彼のネルシャツの胸のあたりが変色していて、それが担がれたときについた自分の体液だと気づくと、そっと視線を外した。ちいさな包みがシーツに投げられた音がして、引きだしが閉じる音が続いたらいよいよだ。
シャツを抜いだ篠山が覆いかぶさってきて抱きしめられると、重みも温もりも匂いも彼のすべてが嬉しくて、彼の首に腕をまわし身体を擦 りつけた。スウェットパンツは移動してくるあいだに廊下に落としてきていて、残っていた下着をつるりと脱がされる。そのついでに神野の揃えられた両脚が彼の肩に乗せあげられた。
晒された陰部に挿しこまれたチューブでクチュリとローションが施 され、ゴムを纏った指が挿入される。
「んんっ」
篠山の手際 はとてもよくて、いつも安心してすべてを任せていられる。しかしこれだってよくよく考えると彼がかなりの場数を踏んでいるからのことなので、まれに正気のときに思いだしたりして、苛つくこともあった。
「んっ、あっ、あっ!」
彼を迎えいれるための器官は、ローションのぬめりを助けにしてあっという間に柔らかく解れ、ひくつだけではなくもう全身を持続的に震わすほどだ。狂おしく篠山の背中をかき抱いて腰を蠢かせた。
「もうちょっと――」
「もういいですからっ! はや、――は、ぅ、んっ!」
焦れてあげた叫びは呑みこまれ、口づけとともにやっと彼のものが入ってくる。
「……んんっ……ふっ…‥んあっ」
ぞくぞくぞくと快楽が背筋を震わせペニスがぶわっと膨張した。とろりとろりと体液が溢れ零れ落ちていく。体内を走り抜けていく快感を最大限に味わうために、思う存分身体をしならせたい。そして淫らに声をあげたかった。
「あっ⁉ おい、こらっ」
邪魔になってしまったキスを彼の顔を押しのけて解くと、「ひどいな」と耳を咬まれた。
「やっ、痛 っ――」
「うそつけ。おおげさな」
「だめですっ、そこ触らないでっ、やっ、ああんっ、ああんっ。強いのっ、……してくださいっ」
奥を突かれるのが一番いいのだ。そこを中心にして砕けてしまいそうな悦楽と、びりびりと四肢を駆け抜け、つま先を痛いくらいに感じさせる感覚がたまらない。堪能するのに、いまはそれ以外のどこへもの愛撫は余計だった。胸に触れる篠山の手を跳ねのけ、首筋を辿 る彼の唇を手で払う。
「やめてっ! やっ、そこっ、やっ! だめってっ! んあっ ああああっ」
「なんつっう……、身勝手なっ……」
呆れたふうにぼやかれたが、彼の腰はちゃんと緩やかなものからがんがんと打ちつける動きに変わった。たまらなくいい。
解放してすっきりしたいという欲求と、それと相反するいつまでも享受していたい官能で頭がおかしくなりそうだ。めくるめくこのひとときが一番大好きで、でも一番自分がだめになるときで……。
自由にびくびく身体を震わせて、「ああん、ああん」と喘ぐ。簡単に終わりたくはない。ペニスだって篠山に触れられればすぐに潰 えてしまうのだから、絶対に触らせられなかった。それは自分でぎゅっと握りしめて調整している。
「んんっ、ああんっ、ああんっ、いいっ、好きッ」
「……その好きっていうのはっ、俺のことで、……いいの、か⁉」
「やっ、訊いちゃ、やっ……ですっ、ああんっ」
陰部を彼の太いので穿たれるだけで精一杯に気持ちいいのだから、本当にもう、他のことはいらない。弾む篠山の声にすら興奮を覚えてしまうから、すこしの間、黙っていて――。
それでも昂揚していく性感はじきにクライマックスを迎えることになる。神野は興奮しすぎて溢れてきた涙と、呑みこめなくなった唾液でぐちゃぐちゃなみっともない顔を両手で覆った。指から嫌な匂いがして、しまったと思ったがそれも一瞬だった。
「んくっ、あっ、……っ!」
ぶるぶるっ、ぶるぶるっと二度三度と小刻みに震えながら神野は吐精した。その合間にもぎゅうぎゅうと篠山のペニスを嚥下するような動きで締めつけていると、間をおかずして篠山も「くっ」と息をつめて自分のなかに放った。びゅくびゅくと熱い刺激を体内に感じると、神野はまた身悶 える。
「んぁっ。んんっ、んっ……んっ……」
呼吸を整えながらぎゅうっと抱きしめてくれる篠山に、額や頭にたくさんキスをされて心地よさに瞳を閉じた。そうされながら暫くは体内に残された彼のペニスを、それをとりまく器官で甘えるようにしてしゃぶるのが常だ。このときもとても気持ちいい。またペニスが緩くたちあがっていくほどに。
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