股間を疼かせながら顔を近づけていくと、これから得られる快感を見越して、顎のつけ根が甘く痛んだ。そのまま緩んだ唇を宝の唇に圧しあてると、彼の口唇を押し開くようにしてていく。宝の唇は、されるがまま素直に開いていった。 　宝の唇はふるふると震えていた。いままで知る女性のなかに、キスひとつでこれほど怯えるものは、処女のなかにもいなかった。しかも彼はとても感じやすい。 「宝、かわいいな」 　歯列を舐めながら囁くと、手を添えていた宝の腰から背筋にかけてが、ぶるるるっと震えた。 「や、あぁ……」 　口のなかに舌をぐっと差し込み、口腔中に愛撫を施(ほどこ)しながら、簡単なつくりの衣服を捲り上げ、するっと脱がしてしまう。首を通すときだけはキスを止めなければならなかったが、そのときにはもう宝は息も絶え絶えになっていたようだ。 「ま、まって、ちょっとだけまって」 　服を取り去ったあと再びキスをしようとしたら、顎を押さえられてしまった。 （これくらいで肩で息をするなんて、ほんとこいつは体力がないな） 　それともあちらの世界の人間はみんなこんなものだろうか、男でさえ弱いのかと、疑ったイアンは、それならば結城はどうなるだとすぐに考えなおした。 「大丈夫か？　キス、つらい？　宝がキスが苦手だと云うのなら、なるべくしないようにはするが……」 「えっと、あの……、その……」 　それとも呼吸が整うのを待ってほしいだけなのだろうか。彼がなにか伝えたいことがあるようだったので、じっと言葉を待つことにする。 「…………えっと……あの……」 　しかし顔を真っ赤にして、口のなかでごにょごにょ云うだけの彼に、次第に焦れてくる。 （それは今伝えないといけない内容なのか？　今からするセックスに関係してくるのだったらちゃんと聞いてやらないといけないし……。でもそうでないのなら――） 　イアンはいつまでも待っていられない自分の状況を教えるために、ベッドに座っている彼の身体をぐいと引き寄せると、自分の下腹部を圧しつける。布越しに感じた彼の弾力に、張りつめていた陰茎から全身へと、さざ波がたつような快感が広がっていった。それはイアンの口から熱い吐息を漏らさせる。 「ひゃっ」 　はぁと熱い息を吐く腕のなかで宝が叫んで飛びあがったので、イアンは思わず喉の奥で笑ってしまった。 「イ、イアン！」 「云いたいことがあるのなら、はやく云え。でないと――」 　彼の腰を抱いていた両腕のうちの右手のほうで脇腹を撫でつけると、その手を皮膚を摩(さす)りながら乳首まで移動させていく。白声をあげた宝のボトムの股間が、軽くみてもわかるくらいに膨らんだ。 「我慢できなくなって、無理にでもお前を押し倒してしまうぞ」 「やぁっ、あっ、あっ、イアンッ」 　悪戯に淡いピンク色をした胸のつぼみを捏ねくりまわす。柔らかかった粒が固く尖ってくると、擦る指の腹に心地よい感触が伝わった。 　イアンは既に、この女性のモノとはまるで違う小さな粒を擦るときの気持ちよさが、癖になりつつある。 　宝は困ったように首を振ったり、足掻こうとする素振りは見せるのだが、実際にはなにも抵抗してこない。これははじめて彼を抱いたときからのことだった。 　彼は恥じらいや戸惑いから、なんども抵抗したそうにしていても、自分がすることには絶対に抗ったりはしない。もしかしたら遠慮しているのだろうかと気づいたのは、宝を二度目に抱いたときだった。 　一昨日(おととい)このベッドで彼を抱いたとき、途中から後ろでも感じられるようになった彼は、表情を恍惚としたものに変えていった。四肢の緊張を解いて自分を受け入れていた内部を柔らかくとろかせると、身体を揺するたびに気持ちよさそうな声をあげて、ちゃんと善がることができたのだ。 　宝のあの状態を知ると、やはり初めて彼を抱いたときには、未熟な彼の身体はひとつの快感も得られてはいなかったのだと知れた。 　もちろん苦痛に歪んだ表情だけでも、その辛さはじゅうぶんに知り得たが、それでも宝自身はひとことも文句を云わず、彼のシーツを鷲掴んだ震える手は、最後まで自分の胸を押し返してくることはなかった。 　あのとき、辛いとひとことでも訴えてくれたら、もっと優しく抱いてやれたかもしれないのにと、今更ながら悔やまれる。 　奥床しいというには、遠慮が過ぎている。セックスなんてどうせなんどもしているうちに、慣れあってしまうものだ。そうなったら遠慮なんてなくなっていく。 　放っておいても時間が解決する問題なのだろうが、どうせなくなる無駄な遠慮なんて、はじめから手放してくれたらいい。なにがあっても自分は彼のことを嫌いになんてならないのだから、彼には好きなように振るまって欲しかった。 　痛いなら痛いと云えばいいし、乗り気じゃないならそう云えばいい。かといって、それを全部聞いてやれるかどうかはわからない。なにしろ自分は性欲が強いほうだ。 　それでも痛いなら痛くないように考えてやれるし、怖いならいくらでも宥めてやれる。緊張しているだけならば、手練手管でうまくまるめこんでしまうこともできるのだ。 　ただ結果、宝が悲しまないようにはするつもりでいる。なにごともすり合わせが大切だ。