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第5話【11/19いい息の日ネタ】ケア・ブレス

(番外編の番外編、これは笹倉 叶目線のお話しです。) 「っ………!!」  私は首を絞められました。  ……苦しい……辛い。  人を首を絞めて窒息して……死に至る場合、片手には握力が最低40ないと出来ないと聞いたことがありますが……中学2年男子に片手に握力が40もないことを……このときの私は祈るしかできないでいた。 「くそっ……オマエの…せいで………オマエがいるから、僕は狂う………っ……」  どうして……苦しいのは…私なのに貴方が苦しそうに見えるのは何故ですか……? 「おい……亮!!やめろよ、笹倉ホントに死ぬよ!!」 「………五月蝿い……」  『杉原 亮』の黒目がちの目から雨粒が溢れて……私の頬に落ちた瞬間、首から手を放されました。  私は思い切り咳をしてから荒くなってしまった息を整えようと……しましたがかなり長い間絞められていたせいでしょうか……とても時間がかかりました。 「はぁっ……はぁ……っはぁ……」 「……笹倉が…全部悪い……オマエが俺を見ないから………いけないんだよっ……」  辛いことに…目をそむけたらいけないのですか? 「普通じゃないんだよ………オマエが!!」  ……私が普通じゃないことは分かってます。  見た目……名前……普通の日本男子ではない。 「晴れてる日は……綺麗に見えるなら、晴れてる日は……汚くしてやるよ……」  私は四人がかりでトイレの床に顔を押し付けられた。 「…はぁ……はぁ……っ」 「……息すんなよ……笹倉が息する度に……僕はっ……」  息をしなくては人は生きてはいられない。  でも……貴方は私が息をするのが嫌なんですね……。  私は息を最低限殺してみました。 「………息をしろよ、……ささくらぁ………っ」 _____ 「………かなえ?」  私は我に返って、声の主を見上げました。 「…あ、ごめんなさい」  声の主は私の学校の先輩、杉原 俊先輩です。 「ごめんはこっちの言葉だよ……。まさか顧問に呼び出しとか……」 「しょうがないです。先生の仰ることは守らなくては!!」  私は本当に気にしてはいなくて……謝る杉原先輩に笑いました。  すると杉原先輩の表情が柔らかくなって、私はそういう一つ一つの杉原先輩の変化がとても『好き』です。  ………本人に言うと多分またからかわれるので伝えるつもりはありませんが。 「叶は健気だねぇ……。俺はそういう叶にキュンとしちゃうよ」 「私は……健気でしょうか?」  私は……『健気』という気持ちが分からないでいました。 「健気じゃなかったらなぁに?」  先輩は『健気』の意味を知っているのでしょうか?  なので私は杉原先輩に質問をしてみました。 「先輩、『健気』ってなんですか?」  すると先輩は困ったように笑って 「叶は俺をなんだと思ってるの……。ガッコ1の問題生徒がガッコ1優等生の叶が聞かないでよ」 「……学年、違います」 「うん、経験も違うね。だけど人間だから知らないこともあっても良いんじゃない?」  先輩は昇降口ではない反対方向に歩き出してしまいました。  今日は真っ直ぐに帰る予定で話していたのに………何故反対に向かっているのか分からなくて、私はまた杉原先輩に質問をしてしまいました。 「先輩!!何処に行くんですか?」 「ん?……尋問室」  ………?  そんなところこの学校にありましたっけ? 「叶は素直に俺に着いてくればいいの!!」  そう言ってゆっくり歩き出している先輩に、私は黙って着いて行くことにしました、 _____  私の名前は『笹倉 叶』といいます。  『かなえ』という名前でも、きちんとした男です!!  ただ……ちょっと…いえ、かなり変わっているかもしれません。  お祖父ちゃんは日本人ですがお祖母ちゃんはドイツ人。  その私の父さんはハーフで母さんはフランス人。  父さんが元々色素の薄いハーフなので……それが私にまで濃く出てしまったみたいで、私の髪は金髪に近いブロンズ色、目は明るみがある緑……お祖母ちゃんは『ビー玉のような綺麗なエメラルドグリーン』と褒めてくれましたが……私は好きにはなれませんでした。  よく『何処の国の人』と聞かれますが、こんなミックスな血が入っている私は…答えられません。  そしてお祖母ちゃんと母さんはの血をより濃く出ていたみたいで、よく女子に間違えられます。  その上に私は毎日牛乳を飲んでいるのに……不思議なくらいに身長が伸びません!!  しかも筋肉も付きにくくて……疲れやすいタイプなのかもしれません。  ………男らしくなりたい、でも情けないことにネガティブな性格で……世間知らずだとよく言われます。 (回りが過保護なだけです)  自分の誇れるところは……ただ少しだけ勉強に没頭出来ること。  それだけはお祖父ちゃんと父さんから受け継げたのかなと思います。  兎に角、私は自分が嫌いでした。  ………でもそんな私でも、自分が好きになれる瞬間が出来ました。  それは杉原先輩がこんな私を『好き』といってくれる瞬間です。  …………最近はいきすぎな瞬間もありますが。  その私を『好き』だと言ってくれる『特別』で私の『好き』な人は『杉原 俊』先輩です。  杉原先輩は……あまり思い出したくありませんが、私が公立の中学で虐めを受けていた『杉原 亮』の腹違いのお義兄さんだったりします。  『杉原 亮』は私を何故虐めていたのかは分かりませんが、やはり血が半分同じ杉原先輩は少し負い目があるようでした。  でも私は加害者の家族はすべて罪人ではないと思っていますし、『亮』と杉原先輩は違います。  杉原先輩は私を『好き』だと言ってくれて、助けてもくれます。  先輩は優しいです……たまに意地悪したりしますが、杉原先輩は私にはない魅力を沢山持っています。  二重ですが切れ長な黒い目、整っている格好の良い日本男子の顔立ち。  それなのに長身で程よいくらいの筋肉のついた身体。  男らしい手に……そして大好きな優しい表情。  こんな人が私なんかを『好き』だなんて言ってくれるなんて……信じらないくらい『幸せ』です。 _____ 「ここが……尋問室ですか…?」  どうみても杉原先輩と私が所属する『卓球部部室』です。  何故『尋問室』なのでしょうか?  私が不思議に思っていると、杉原先輩は優しい表情でこちらを見ながら笑っていた。 「……叶を尋問するにはうってつけの場所デショ」 (……尋問されるようなこと……私はしたのでしょうか)  私は少しだけ不安になりました。 「私は何か先輩に気にさわるようなこと……しましたか?」  杉原先輩は慣れた手付きで部室の鍵を開けながら、 「してないけど、誰かに聞かれたら嫌なことだったら話しづらくないかなって俺が勝手に思っただけ」  ……気を使ってくださったのだと感じて、私は先輩の優しさに嬉しく思いました。  卓球部は男の人が大好きな鈴木先生から杉原先輩が口封じの為に取り上げた、被害者の逃げ場所……今はあまり存在も場所も知られていない、陽当たりも良くない場所にあります。  11月は結構寒いですが、ここはもっと寒く感じました。 「電気はつけなくてもいいか……」  でも卓球部のカーテンは訳がありまして暗幕です、私はカーテンを開けました。  そして暖房を付けます。 「えー……暖房はいいよ」  杉原先輩は唸って言いましたが、私は結構な寒がりです。 「私は寒いです」  反論したら、杉原先輩はジャケットを脱いでしまいました。  ………11月ですよ?立冬過ぎてますよ?!  先輩は寒くないと言ったはずなのに、何故か暖房が直接当たる場所の床に座った。 「何見てんの?……その暑っ苦しいコート脱ぎなよ?……暖房つけたの叶デショ」  ……まだ私は寒いのに……と思いつつも私は先輩にはあまり逆らえない性格です……スクールバックを置いたパイプ椅子の上に脱いだコートを置きました。 「…おいで、叶」  杉原先輩は両腕を広げて私にこちらに来るように促す。  私の好きな先輩のその『言葉』。  私は条件反射のように先輩に近づいて、一歩開けて向かい合わせに座りました。 「違う違う、叶は俺の膝の上に座るの!」 「ええ!!」  そんなこと小さいときにお祖父ちゃんのとき以来です……。  私は後ろを向いて、杉原先輩の膝の上に乗ると……、 「違う…!!向い合わせで、叶は俺の膝の上に座るの!!」 「………ええええぇぇぇぇ!!!!」  それは……それは……恥ずかしいです……。 「これはセンパイ命令!!俺が膝にのるように言われたら、この体制。じゃないとお互いに抱き合えない。俺は抱き締めたいけど、抱き締められたくもあるの」  と杉原先輩は私の身体を軽く持ち上げて、体制を変えられてしまう。  そしてそのまま抱き締められてしまう。  ……これは近くて…結構なくらいに恥ずかしいです。 (でも……暖かいです………) 「……さっき、何考えてた?」  真面目な杉原先輩の口調に私の心臓が凍りつきました。 「……人形みたいな顔してた」 「…………」  気付いてました。 「叶に感情がないときは……辛いときだよね」 「…………」  私は何も言えないまま黙って杉原先輩の肩に顔を着けました。  言いたくない……責任感の強い先輩は中学で私を虐めていた『杉原 亮』のお義兄さんは『杉原 俊』先輩なのです。 「中学の虐め……思い出してた?」 「っ!!」  ………完全に気付かれてました。  私の身体はあのときの辛さ……怖さを思い出してたしまっていて……震えてしまっていた。 「それ亮……だよね」  杉原先輩にキズを付けたくなかったので……私は嘘をついた。 「………忘れました」 「ウソ、じゃ何で声震えてるの」  もう嘘は通じません、先輩は見抜くのが上手です。 「やだな、いくら亮でも叶をこんなトラウマ植え付けて……兄貴やめたい」  やだ……嫌です、杉原先輩にとっては銀弟……大切な義弟だって聞いていたので、嫌でした。 「……やめっないで……お義兄さん…」 『オマエのせいでっ……』  頭の中で思い出してきてしまう。 「……叶?」  杉原先輩は私のせいでお義兄さんをやめてしまう……? 「亮のお義兄さん……やめ……ないでっ`」 『……僕は…狂う………っ…』  フラッシュバックする。 「叶?…落ち着いて、大丈夫!!」  私はあのときに首を締められたときのように苦しくて……息が出来なくなっていた。 「………っ!!」 『……息すんなよ……笹倉が息をする度に……僕はっ……』  ……人は呼吸が出来なくなると身体が痺れてくる…今の私がそうでした。  私は息をしたらいけない。 「……かなえ!!息してっ!!」  ……息はどうしたら出来るのですか?  私は杉原先輩に身体が揺さぶられました。 「深呼吸!!」  忘れました、仕方を。 「………っ!!馬鹿」  先輩は両手で私の頬を挟むと乱暴に唇を重ねられました。 「………んっ」  息が……入ってきました。  口に。  私の口に直接『杉原 俊』先輩の息が入ってきた……。  最初は乱暴に入ってきた息が……先輩の息継ぎで少しずつ呼吸が出来るようになり……唇が完全に離れられる頃には……深い口付けに変化していました。 _____ 「息……出来てる?」  優しい、心配している口調で杉原先輩に聞かれました。 「っはぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」  苦しくて……でも私は息をしています。 「叶?」 「…息…出来てます」  荒いですが……息をしています。 「……どうして虐められてたときのこと…思い出したの?」  それは……決まってます。 「今日が11/19……『いい息の日』だと知ったので……『息をしないで欲しい』と言われたことが……フラッシュバックしただけです」  そう、今日朝のテレビで天気予報を見ていたら偶然今日が『いい息の日』だと話題になっていました。  でも……とても首を締められたなんて言えませんでした。  それでも先輩には分かってしまいます。 「……でも!!その嫌な思い出、俺が塗り替えてあげるよ?」  杉原先輩はまた唇を重ねてきて私の口に息を吹き込んできてくれました。  沢山……沢山の先輩からの、『杉原 俊』先輩からの『癒し』の息……。 「叶……息…俺のためにたくさんしてね?」 「………はい」  私は杉原先輩からの沢山の息をいただいてしまって……いつものキスより羞恥心を感じていました。 「叶、今日は何の日になった?」 「………『いい息』の日になりました」 完

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