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第4話

一段と寒さの厳しかった冬も終わりを迎え、心地よい春風が吹く季節となった。 あれからというもの、雅紀さんとも週2くらいのペースで逢瀬を重ね、おれはおれなりに楽しくて幸せな日々を送っていた。 ただ気になることと言えば、奥さんが実家から帰ってきたということくらいだ。雅紀さんの話によれば、出て行ったときと同様に、またしても突然帰ってきたらしい。雅紀さんがいつも言葉を濁すから、夫婦のことはよくわからなかったけれど。 『瑞希、いい加減にしとけよ。おまえ自分が何してるかわかってんのか?』 家を出てくるときに聞いた凌平の怒声が耳から離れない。おれの幸せライフとは裏腹に、いや、それに比例するかのように、凌平とは喧嘩ばかりの日々を過ごしている。 雅紀さんとのことが世間じゃ許されないってことも知ってるし、奥さんに対する罪悪感に押し潰されそうになることだってある。今のままじゃダメだってことくらい、おれにだってわかる。でも、どうしようもないんだ。 何かを考えなきゃいけない状況から抜け出したかった。何も考えなくていいのなら楽になれるのに。 ピロピロンとSNSの通知を知らせる音がなる。雅紀さんからだ!と胸を躍らせたおれは文面を見て、言葉を失うほどにショックを受けた。“もう会うのはやめにしよう。今日も、これからも…。”そのメッセージは一方的な拒絶を意味していた。 降りしきる雨の中、傘も差さずに歩いているとお巡りさんに捕まった。どこに行くのか聞かれて、どの辺に住んでいるのかまで聞かれた。家で待っているであろう凌平の顔が思い浮かんで、思わず泣き出してしまった。お巡りさんには申し訳ないことをした。 それからしばらくして、交番で寛いでいると凌平が迎えに来てくれた。お巡りさん相手にやたらとぺこぺこしているのがおもしろくて、思わず噴き出してしまったときには“反省しろ”と小突かれたっけ。 「少しは懲りただろ。大人しくしとけ」 おれを家まで送り届けた後、そう言って凌平は帰って行った。いつもは“帰れ”と言っても帰らないくせに、こういうときには帰っちゃうんだから、ほんと憎い奴…。だから嫌いなんだ。

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