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第5話

桜の舞い散る入学シーズン、おれは極めて平凡な日常を過ごしていた。 それなのに、嵐は突然訪れる。 「ユズ、カレーとシチューどっちがいい?」 3歳くらいの娘を連れて、今日の夕食の食材調達に来ていた雅紀さんとスーパーでばったり出くわしてしまった。出かけたついでだからと、いつもは寄らないスーパーに寄ったのが間違いだった。おれの隣には凌平がいる。もう逃げられない。 「…雅紀さん、こんにちは」 「瑞希くん…、久しぶり」 凌平は今にも飛びかかりそうな勢いで、雅紀さんをじっと睨みつけていた。 「娘さん、いたんですね…」 「…うん。…息子もいるんだ」 「そうなんですね。…いくつですか?」 「……1ヶ月と少し」 俯いた雅紀さんは傷付いた顔をしていた。…あぁ、そうか。奥さんが実家に帰ったって言っていたのも、里帰り出産のためだったんだな。出会った去年の6月の頃も、奥さん妊娠してたんだよな。そういうことか。そういうことだったんだ…。 今までの出来事に筋が通って、心のモヤモヤが晴れた気がした。 「…凌平、帰ろう」 「おい、あんた。…奥さん相手に何も知らない旦那の顔して、ちゃっかり子育てでもしてろや。二度と俺等の前に面見せんじゃねえぞ。例え瑞希があんたを許しても、俺はあんたを許さねえからな」 子どもに聞こえないように抑えた小さな声で、凌平は怒りを露わにする。 「ユズ、ママへのお土産、探してくるね!」 雅紀さんと目鼻立ちのよく似た女の子が、スカートをなびかせてスイーツコーナーに走って行った。何気なく目をやったカゴの中に、新生児用の紙おむつが入っていることに気づいてしまった。 居ても立っても居られなくなり、凌平の手を引いてその店を飛び出した。

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