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第13話◇
今は、お互い納得済みのセフレが複数いるし、一夜限りの相手と関係をもつこともある。
何人か男にも手を出したのは、もともとそんなに抵抗がなかったのと、誘われることも多かったから。もしかしたら女よりは、嫉妬心が薄く、楽に付き合えるだろうかと、ちらっと思ったこともあったけれど、結局、男も女も、同じだった。
男女ともセフレの関係が長くなると、たまに勘違いして、恋人になりたいと言い出す奴がいる。 そこには、束縛したいという想いが必ず入っていて、それゆえの「恋人」希望なので、もうその時点で無理。
最初の約束通り、すっぱりと断って、終わり。
セフレが多いと聞くと、世間の奴らは、そういう目で見てくるけれど。
それさえ全く気にしなければ、何の問題もない。
彼女が居ても、浮気したり何股もかける奴も居る。
最初から、楽しむことだけ共有する関係と断ってて、何が悪い。
世間的に、どう噂されようと、別に大した問題でもない。
見た目でも、人気バンドのヴォーカルってことでも。
……親が超金持ちってだけでも、勝手に人が寄ってくる。
セフレでもいいと言ってくる相手は後を絶たないし、困る事は何もない。
――――……と、心底、思ってるのに。
なんで、猫なんかに、お前もボッチなんて、言ったんだか。
正直、少し、虚しい気がしてるのは分かってる。
最初の頃は、まじめに付き合おうと思っていたし。
自分に、そういう交際が普通にできないとは、思わなかった。
でも、今度こそと思っても、毎度、見事なほどに同じ結末。
今ではバンドも名前が売れて、人気が出てしまったので、余計。
付き合う奴が、妬かないようになんてできる気がしないし、もう、試す気にも、ならない。
今の関係は、自由で楽だし、いいとこどりみたいな感じもするし。
この生活は、気に入ってる。
「――――…」
抱き上げた猫を撫でると、ゴロゴロ喉を鳴らしてる。
ふ、と微笑んだ瞬間。
人の気配がして、振り返ると。
そこには、1人の男が、ぽけっとした顔で立ってた。
「――――……誰。 なに、お前?」
聞いても特に答えず、ぼーと見つめてくる。
立ち上がって、何か用かと聞くと。
「なに、て…… あの……」
そいつが声を出したら、抱いていた黒猫が顔を動かしてそいつを振り返った。「クロ」と呼ばれると、急に腕の中で動いて、ぴょんと飛び降りた。
瞬間、その男は、嬉しそうに、ふわ、と笑った。
寄って行って甘えてる黒猫を見ながら。
「お前の猫……じゃねえよな?」
そう聞いたら。
「あ、うん。違うけど。たまにエサあげにきてて」
そう言った。
――――…野良に、適当にエサをあげるのがどうなんだろうと咄嗟に思って。…別に関係ないから言わなくてもよかったのに。つい。
「――――……下手にエサとかはあげないほうが良いんじゃねえの」
そんな風に言ってしまった。え?と振り仰がれて。さらに続けた。
「お前があげに来なくなったとき、困るのはそいつだろ」
そう言ったら、そいつは、ぽけ、とした顔でオレを見つめて。
それから、ふわ、と笑った。
黒猫を半分飼ってるようなコンビニのおばちゃん達と仲良くエサの話までしてから、わざわざここに餌をあげに来てるらしい。
……変な奴。
そう、思って、立ち去ろうと思ったのだけれど。
「でも、そんな事、普通考えないと思う――――……優しいんだね」
なんて言われて。
ものすごく、まっすぐな言葉と視線に、珍しく一瞬、言葉が出なかった。
関係のある奴に何かしてやったりすると、「玲央優しい」なんて抱き付かれたりする。「優しい」なんて割とよく言われて、聞きなれてる。
……のだけれど。なんだか、少し、違う。
猫がエサを食べ終わったら。
「美味しかった?」
明るい声で、楽しそうに言って。
ふわふわと猫を撫でながら、すごく幸せそうに笑ってる。
なんだか
ものすごく――――…
一言でいうなら、おかしな気分になった。
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