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第14話◇

 最初に見た時は、何の思いも興味も感じない、普通の男だったのに。  至って普通の、素朴な感じの、何なら地味な、男で。  全然好みのタイプでもなんでもなかったのに。  ふわ、と笑った顔と  猫に話しかける瞳と声、に。  何かが、よぎった、としか言えない。    「なあ、ちょっと立って」 「え?」  立たせて、目の前に来た、顔。  位置的に、すごくキスしやすい位置。 「え、なに?」  びっくりした、きょとん、とした顔を見ていたら。  ――――…ますます、思った。  キスしたら――――…どうなるんだろ。  無邪気な顔、乱したら。どんな顔になるんだ?  そう思ったら。  思わず、言っていた。 「……キスさせて?」  言うと、そいつは「え?」と、きょとんとして。  少し待ったけど、拒絶はない。 「良い? 拒否らないなら、するけど」 「え、 え? なに――――……」  顎に触れて、少しだけ上向かせて。  ――――…触れるだけのキスをした。  目を開けたまま。おとなしくキスされて。  そのまま、じっと、見つめてくる。 「――――……なに……?」 「なにって……キス」  そう返したら、真っ赤になって。けれど視線はそらさずに、ただただ、オレをまっすぐに見つめてくる。  拒否られたら、やめよう。  そう思ったのだけれど。拒否られる訳でもなく。ただ、じっと、見上げてくる瞳。  一度、キスしたら。  ……もっと、したくなって。  自分でも不思議に思いながら。  心の望むまま、唇に指で触れた。 「――――……口、少し開けれる?」 「……っ」  触れそうな位近くで囁くと、すぐに、口を薄く開いてくれた。  そんな、真っ赤な顔して――――……でも開けるんだ。  ……面白ぇな。  ふ、と笑ってしまう。そのまま、唇を重ねて。少し、舌を入れてみる。  さっきキスした時から見開きっぱなしだった瞳が、ぎゅっとつむった。  喘ぐ、というよりは――――……息がうまくできなくて、息を吸おうとして声が漏れる、みたいな。そんな反応に、キス、慣れてないのかなと思って。 「――――……抵抗、しねえの?」  少し離して、聞いてみる。  それでも、オレをじっと見上げて、抵抗は、しない。  少しそのまま待って、それから、もう一度、キスした。  了承なのだと判断して、深く、唇を重ねる。  舌を絡め取ると。 「……っん……」  しがみつくみたいにオレの服を握り締めてた手が、ぴくん、と震えた。  ふ、と気付いて、少し目を開けて、様子を見ると。 「……っん……っ……ふ、っ……」  上気した頬に、睫毛に涙が滲んでて。気持ちよさそうに、少し声が漏れる。  はぁ、と、息を求めて少し離された唇に、顎を捕らえて、更に舌を捻じ込んだ。 「――――……ん、んん……っ」  なんか――――……  こいつ… 「…………ふ……っ……」  ゆっくり、唇を、離すと。  涙目のまま、呆然と、見上げてくる。  ――――…何だかまた。 妙な感覚が、沸き起こる。  なんだか、よく分からない。  なんだこれ。  自分の中の、よく分からない感情に、自然と、眉が寄る。  

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