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第16話◇

「……オレはもっと触りたいんだけど」  その頬から首に、す、と触れた。  ぴく、と反応して。 それからすぐに、また赤くなって。 「……オレそもそも、男……」  そう言われたけれど。 「全然問題ないけど」  すぐにそう返した。すると。 「オレ……無理だと……思う」  すごく、間を開けながら、そう言う。  ――――…まあ。  男が無理っつーなら、無理か…。  無理強いしても、そこはしょうがねえな…。  残念。すげえ、抱いてみたかったのに。  思いながらも、そっと、触れていた手を離した。 「――――…無理なら仕方ないな」  もう少し――――… あの笑顔を、見たかった気がした。  気持ちよさそうな顔も、させてみたかった。    手を、離した瞬間。  なんでなのか――――…ものすごい、喪失感。  なんでだ? こんな、出会ったばかりの、男に対して。  いまいち自分の感情が、良く分からない。  それでも、こんなところで、しつこくする訳にはいかない。 「キスしてごめんな。忘れて」  そう言って、もう、離れてしまおうとした。   側に居ると、触れたくなりそうで。  そいつから視線を外して、歩き出して離れようとした瞬間。 「――――……待っ、て……」  手を、掴まれた。 「――――……なに?」  手を掴まれたまま、振り返ると。  何だか一生懸命な顔。その瞳を見つめ返す。 「……オレ」 「―――……?」 「オレ、あんたと……一緒に――――……居たい、かも……」 「……は?」  その言葉に、少し驚く。  オレと。  一緒に居たい。 かも?  ――――…一緒に居たいって。  寝れるか聞いたけど――――…  一緒に、居たいっていう返事が、返ってきた。 「……なに? 一緒に居たいって」 「――――……わかん、ない」 「……キスが、良かった?とか?」  思いつくまま聞いてみると、小さく首を振る。 「ていうか、忘れてって……そんな簡単に、忘れられないし……」 「――――……?」 「キス、忘れろって、言われても、無理……」 「……良くて??」  忘れられないって、なんで?   不思議に思って、そう聞くと。 「だって……キス、初めて、だった、し」 「え」 「――――……」  衝撃発言に、固まる。 「……ファーストキスだったのか?」 「……うん」 「え、ほんとに?」  驚いて、確認で聞いてると。 恥ずかしそうに、赤くなる。 「…マジか…」  と呟いてしまう。  居るのか、大学二年にもなって、キスが初めての男なんて。  ――――…別に顔が悪い訳でもねえのに、なんで?  ていうか。  ファーストキスを奪ったオレと、一緒に居たいって。  なんなんだろう。 「――――……んーと。……それで?」 「……え?」 「……一緒に居たいっていうのは、なに?」  そう聞くと、また困ったように黙る。  その顔を見ていたら、もう一度確認したくて。 「……ていうかお前、ほんとにキス初めてだったの?」 「……うん」  まあ…こんな嘘はつかないだろう。  ……この年でファーストキス、まだだった奴に…  抵抗なかったとは言え、戸惑う間もほとんど与えずキスしてしまった。  ……まずったな。

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