17 / 811

第17話◇

 さすがに少し反省していたら。  急に、クスっと笑われて。 「――――……? なに?」  このタイミングで、なんで、笑う?  そう聞いたら。 「……ちょっと、悪かったと、思ってる?」 「――――……まあ」  そう答えると、そいつは、何だかすごく、穏やかに、柔らかく、ふふ、と微笑んだ。 「……お前、名前、なに?」 「……優月(ゆづき)。優しいに月って書く」 「優月、か。――――……オレ、玲央でいいよ」 「れお…」  唱えるみたいに、オレの名前を口にしてる優月を、じっと見つめる。 「……なあ、優月」 「……?」  見上げてきた優月に。 「――――……もっかい、キスする?」 「……?」 「……ファーストキス。ちゃんとやりなおす?」 「――――……」  してしまったものは、もうどうにもできない。  けど、嫌じゃないなら。  ちゃんとキス、しなおすのもありかなと思って、聞いてみた。  優月は、じ、とオレの顔を見つめていたけれど。  不意に、ふ、と、瞳が緩んで、くすっと笑う。  なんかオレ――――……  こいつの、この笑い方――――……  なんか……見ていたい、かも――――……。   「……別に、いい。やり直さなくて」 「ん?」 「……やじゃなかったから、殴んなかったし」 「――――……嫌だったら、殴ったの?」 「……当たり前じゃん」  ――――…意外。 …嫌だったなら、殴ったんだ。  そう思うと、思わず笑ってしまった。 「――――……じゃ、やり直さなくていっか」 「うん……でも」 「……でも?」 「……玲央とキスは……したい気がする」 「――――……ふうん?」  キスしたい、なんて。  言うんだ。  ――――…さっきのが、初めてだった奴が。  ふーん…。面白い。  なんか、ますます。  ――――……興味深い、というか。   何なんだろう、これは。  見つめてると、優月は何も答えず、じっと見つめてくるだけで。   「……オレとしたいの、キスだけ?」  そう聞くと、優月は、瞬きを繰り返して。  かあっと、また赤くなる。  肌が白いから、赤くなると――――…目立つ。  と、その時。  急にポケットのスマホが震えた。  あ。やべ。  そうだ。練習遅刻しそうだからって、車で送ってもらったんだから……  もう完全に遅刻だ。  無視するわけにもいかず、スマホを見ると、案の定、バンドのメンバーから。 「もしもし――――……」 「玲央、いまどこだよ、15分遅刻だよ!」 「……ああ、つか、もう着いてんだけど……ちょっと途中で……」 「いーから早く来て」 「…分かった、今から行くって」  それだけ言うと、電話を切る。  じっと見つめてくる優月に、視線を向けて。 「バンド仲間から呼び出し。練習だから、行かねえと……」 「あ……うん」  なんか色々話がつくまで、ここに居たかったけど。 「…優月。キスしても、いい?」  ぐい、と引き寄せて、返答を待っていると。  息を飲んだみたいに、優月は黙って。  それから、しばらくして、うん、と頷いた。

ともだちにシェアしよう!