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第22話◇

『来いよな。すっげえ優しくしてやるから』  最後にそう言って、頬に、キスしてくれた玲央。  オレが目の前にしてた玲央は、美咲の話とは少し違う気がした。  好きと言ったらすぐに捨てるような、くそ野郎、て、美咲は言ってたけど。  ――――……そんな風には、見えなかった。  ……優しかった、けどな。 ずっと。  オレの前に居た玲央だけを、オレが見ていられるなら。  それはそれで、幸せなんじゃないかな……。  キスは、する前に、聞いてくれてた気がする。  ――――……いい、と言っても、様子見ながら、してくれてた気がする。  そういう事に慣れてて、手が早いとかは否定しようがないとは思うけど。    「最低」な「くそ野郎」とかじゃなかった気がするんだけどな。  ……多分これを言っても、美咲は、否定すると思うけど。  もう、感覚だから、どうしようもない。  玲央に、「忘れて」と離れられそうになった時。  切なくて、辛かった。  どんな意味か分からないけど、一緒に居たいと思った。  キスは、嫌じゃなかった。  たぶん、その後の事も――――……玲央がするなら嫌じゃない気がする。  自分が嫌じゃないのなら、何がいけないんだろ。  玲央がたとえ、誰かにすごく冷たかったとしても。  もしかしてすごく、誰かにとって嫌な奴だったとしても。  ――――……オレが、オレの前に居る、玲央と居たくて、  オレの前にいる玲央を好きで、  オレの前に居る玲央とキスしたいなら……。  ……それは、いけない事なのかな。  もし、本当に、オレにとっても冷たくて嫌な奴だって事が分かったなら、 その時、離れればいいだけなんじゃないのかな。  大学2年生。  良くも悪くも。今、すごく、自由。  人生で一番自由な時期なんじゃないだろうかと、思う。  大学受験も終わって、大学にも慣れて、ゼミもまだ本格的に始まってないから、課題もそこまで厳しくない。でもって、就職活動もまだ全然なくて。  ――――……だめかなぁ、この、すごく、自由な、今。  生まれて初めてな位、どうしてか、すごく惹かれる人と、  一緒に居てみるの……。  ――――……だめ、なのかなあ。  別にそれで、傷ついても。  ――――……少しの間だけでも、玲央と居れるなら、良いとか。  オレ、今思っちゃってるんだけど。  でも、これを美咲と智也に納得してもらえる気がしない。  玲央と居たい理由を、理屈では言えない。  絶対、関わらない方が良いと警告してる自分も、居る。  智也と美咲にすごく心配かけてまで、選ぶ関係じゃない、とも、思う。  だけど――――……。 「はー……時間だ……」  この2日間、堂々巡りの思考を、また同じように辿った。  時間切れで、仕方なく、学校に向かう事にした。  玲央の絵を、机に置いて、じ、と見つめてから。  部屋を後にした。

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